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第92話
――といっても、大きなトラブルなんて滅多に起きないんだけどな。
大人だらけのヴァルハラで迷子はあり得ないので、主な仕事と言えば落とし物の回収くらいだ。
喧嘩を発見したとしても、決闘の審判を勤めて負けた方の遺体を回収するだけでいい。
他の仕事に比べれば、見回り当番は比較的平和な仕事であった。
――兄上と狩りでもした方が楽しいんだけどな……。まあしょうがないか。
あと二周くらいしたら一区切りつけよう……と考えていると、
「アクセルさん」
誰かに声をかけられ、アクセルは足を止めて振り返った。見たことのない戦士だった。名前も知らない。
「ええと、何か?」
「そこに落とし物があったので、渡しておこうと思って」
なんだ、落とし物か。わざわざ届けてくれるなんて、親切なことだ。
「そうか、ありがとう」
アクセルは彼が渡してきた首飾りを受け取り、また見回りを再開した。
歩きながら、首飾りの形を確認する。十字架を象ったシンプルなものだ。
――誰のものだろうな、これ。ユーベル様とか、こういうのたくさん持っていそうだけど。
とりあえず世界樹 の前まで行って、落とし物届けを書いておくか。
そう思い、アクセルは世界樹 の前にやってきた。
落とし物届けの書類を受け取り、その場で色や形等の特徴を書いて、どこで拾ったかも記録する。
「通行人から直接届けられた……と」
そこまで書いたところで、ふと手を止める。
――あれ? ちょっと待てよ?
とある疑問が湧いて来て、アクセルは首をひねった。
彼は何故こちらの名前を知っていたのだ?
兄・フレインならまだしも、自分はそこまで目立つようなランクではない。会った覚えもないのに名前を知られているとか、なんだか変な感じがする。
よしんば名前を知っていたとしても、アクセルが見回り中だということを知っているのはさすがにおかしい。当番は制服があるわけではないので、パッと見ただけではそこら辺をただ散歩しているようにしか見えないはずだ。
なのに何故、あの人は迷わずアクセルに落とし物を渡してきたのだろう。普通は落とし物を預ける前に「見回り中ですか?」と確認するものではないだろうか。
――まさかこれ、何かの罠なのか? いや、さすがに考えすぎか……?
そう思った時、背後に誰かの気配を感じた。
振り返った途端、棍棒のようなものが掲げられているのが目に入った。
「っ……!?」
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