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第109話

 ヴァルハラでは夜にほとんど曇ったことがなく、いつでも満天の星が見える。 「またちょいちょい一緒に修行しような。今度は俺も、もっと鍛えておくから」 「ええ、もちろん。僕も頑張ります」  ゆっくり温まり、身体も洗ったので露天風呂から出て家に戻る。  キッチンでは、兄が何やら丁寧に食材の下処理をしていた。 「兄上、何を作ってるんだ?」 「ああ、暇だったから夕飯の下準備中だよ。余計な肉の脂身を取り除いて、野菜の皮を剥いて、味が沁み込みやすいように薄く切れ込みを入れて……」 「そ、そうか……ありがとう。俺も一緒にやるよ」  そう言ったら、兄は嬉しそうに微笑んだ。  兄が下準備してくれた肉や野菜を大鍋に入れ、水もたっぷり入れてピピ用のスープを作る。  細かく灰汁を取りながら煮込みつつ、アクセルはチラリと兄を見た。  兄はひたすら次の食材を切り刻んだり、卵をボウルに割って掻き混ぜている。  ――「暇だったから」って……兄上、一人だとやることないのか……?  兄は一人になるとフラッと出掛けていつの間にか帰って来るイメージだから、「やることなくて暇」という状況は珍しい気がする。  考えてみればこれといった趣味もないし、意外と時間を持て余すタイプなのだろうか。  まあここはヴァルハラだから時間なんて持て余して当たり前だし、娯楽も――以前に比べればだいぶマシになったが――お世辞にも多いとは言えないので、死合い以外は暇で暇でしょうがないっていう人も大勢いるのだろうが……。  ――確かに、最近あまり大きな事件は起きてないからな……。毎日必死になって乗り切っていた頃と比べると、確かに暇……かも。  明日は自分も兄も非番だし、久しぶりに狩りにでも誘ってみるか。  山に入ればあっという間に時間が溶けるし、戦利品として獲物も手に入る。例え戦利品がゼロでも、兄と過ごせれば何でも楽しい。  そんなことを考えながら、アクセルは出来上がったスープをピピのところに持って行った。  ピピは大喜びで駆け寄ってくると、鍋に頭を突っ込む勢いでスープを食べ始めた。  またキッチンに戻り、今度はカメのために塊肉をじっくり焼いて甲羅の側に置いてやった。  カメは相変わらず居眠りを決め込んでいたが、焼けた肉の匂いを嗅ぎつけたのか急にニュッと甲羅から首を伸ばし、何も言わずにむしゃむしゃと肉を食べ始めた。まったく、食い意地の張ったカメだ。  今度こそ自分たちの食事にしようと、キッチンに戻って料理を再開する。  ノインにリクエストされた甘い玉子焼きもしっかり作り、テーブルに持って行った。

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