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第18話 期待
使冴が何か言いかけて、寝落ちた。
耳元で、間延びした呼吸が聞こえる。
伊純は、ガバリと顔を上げた。
「使冴? まさか、寝たのか?」
頬を撫でても、体を揺さぶっても目を開けない。
幸せそうに小さな寝息を立てる使冴を、呆然と見詰めた。
「天使の顔で、寝落ちんな。せめて、最後まで言え」
空気が抜けた風船のように、体が使冴の上に沈んだ。
がっかりしすぎて、ぐったりした。
「ぅん……」
ビクリと体を震わせて、使冴が可愛い声を零した。
紅く火照った頬を、するりと撫でた。
「あー……可愛い」
唇にキスを落として、体を起こした。
ずっと我慢していたから、正直一回じゃ収まらない。
とはいえ、気持ちよさそうに眠る使冴に、これ以上は何もできない。
「俺に、反応したのか? 使冴」
漏れる吐息を指でなぞる。
(いつもみたいに頬を撫でただけなのに。むせかえるほど甘いフェロモンが、薫った)
脳髄を麻痺させるような、強烈な甘さだ。
何を話したかなんて、覚えていない。
気が付いたら言葉以上の想いを、使冴の中に吐き出していた。
(拉致った日とは、違った。まるで俺のフェロモンに、使冴が煽られてるみてぇな)
抑制剤の薬効がないほど、あの日の使冴も発情していた。
(あの時も、俺のフェロモンに煽られたんだと思った。だから、可能性があると信じたかった、けど)
αのフェロモンの影響を受けない特殊なΩが、|発情期《ヒート》以外で突発的に発情する状況。
考えられる可能性は『運命の番』に出会った時だ。
しかし、初日に発情の兆候を見せて以降、使冴自身に変化はなかった。
日増しに濃くなる使冴のフェロモンに、伊純が翻弄されていただけだ。
(使冴は発情期って言っていたけど多分、違う。使冴も俺も、ほぼ同時に発情した。お互いに煽り合ったんだ)
わずかな可能性でも、期待する。
余裕なく、なりふり構わず求めてくる使冴の顔を思い返す。
(っ……可愛すぎるだろ)
眠る使冴を、腕に囲う。
胸から伝わる心臓の鼓動が、まだ速い。
「俺に堕ちろよ、使冴。お前のこと、何年好きだと思ってんだよ」
わからないことも、解決しなければならない課題もまだあるけれど。
好きな相手に求められた幸せに、今は浸っていたかった。
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