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第28話 久しぶりの外出
伊純と練習している射撃場はマンションの下の階にある。
物置にしている部屋の奥にエレベーターがあって、直接降りられる。
このマンション全体が、使い勝手のいいように改築されている。
(Dissolveの物件なのかな。伊純は俺の家って言っていたよな)
どちらであっても、普通ではないマンションだ。
十日くらい色々な訓練をしたので、今日は一日休みになった。
(久々に何もないし、今日はいっぱい掃除して、天気がいいから洗濯もしたい)
マンションの高層階だから外に干せるわけではないが、天気がいいと大物を洗濯したくなる。
最近は、窓から吹き込む風からも暑さが抜けた。
空気が乾いて、空が高い。
「もう、十月なんだ。あっという間だな」
部屋のカレンダーを捲りながら、思う。
監禁同棲生活が始まったのが、七月下旬だった。
約二ヶ月強、ひと夏を、まるっとこの部屋で過ごした。
(内容はかなり濃かったぞ。たったの二ヶ月とは思えないレベル)
今までの自分を捨てて、家族の仕事を知って、自分の心と向き合って、番を得た。
新しい家族に出会えた。
「伊純は本当に、俺の人生、リセットしてくれた」
ネックガードの宝石に触れる。
伊純の顔が浮かんで、胸が締まる。
(なんか、ムズムズする。毎日、一緒にいるのに、胸がキュンキュンする。好きって、こんな感じなのか)
初恋経験中の使冴にとっては、伊純に抱く感情が今更、真新しい。
知らなかった感覚ばかりで、戸惑う。
(アオハルっぽくて、恥ずいな。けど、悪くないかも。色々大丈夫になったら、伊純と二人でどこか、出掛けたりしてぇな)
こういう欲はきっと、想いが順調な証拠なんだろう。
(多感な年頃のガキじゃねぇから、待てるけどね)
リビングの窓を乾拭きしながら、照れた心持を誤魔化した。
「……かさ、おーい、使冴」
後ろから伊純の声が聴こえて、使冴は飛び上がった。
「ぅわぁ! 何だよ、急に背後に立つなよ。ビックリすんだろ」
「声掛けながら近付いたんだけど」
驚く使冴を、伊純が呆れた目で眺める。
「全然、気付いてなかったけど、何か考え事でもしてた?」
「別に全然! 考え事とか全然してない!」
今まさに伊純のことを考えていました、とは恥ずかしくて言えない。
「ふぅん」
むぎゅっと鼻を摘ままれた。
「はきゃっ」
伊純の顔が満足そうに笑んでいる。
胸の内を見透かされたようで、かなり恥ずかしい。
ムッとして顔を上げたら、キスが降ってきた。
(番になってから、伊純が息を吸うみたいにキスする。そういうのも好きだけど、なんか照れる)
番になりたての頃より、時間が経った今のほうが恥ずかしいのは何故なのか。
「今日、天気いいからさ。使冴が良ければ、どっか出掛けようと思うんだけど、どう?」
「天気、良いよな。今日みたいにカラッと晴れた日は、布団干してぇんだよな。タワマンだから無理だけど……って、え?」
思いもよらないワードが飛び出して、思わず問い返した。
「だから、外出。どこか、行きたいとこある?」
「外に出て、いいの?」
まさか許可が出ると思わなくて、戸惑った。
「俺が必ず同伴って条件で、兄貴から許可が出た」
「マジか」
ついさっき、二人でお出かけ妄想をしていたばかりだ。
使冴的に、かなりタイムリーだ。
「移動は絶対に車だし、人が多すぎる場所とかはまだ、連れて行ってやれねぇけど」
わなわなと震える手で、使冴は伊純の腕をがしっと握った。
「行きたい場所、ある。車がいい。大型ホームセンターに行きたい!」
「ホームセンター? なんで?」
伊純が戸惑った顔をしている。
「部屋干し用の洗濯洗剤で、欲しいのがあんだよ。あと柔軟剤も香料フリーのが、伊純は好きだろ? 調味料もちょうど切れそうなのある。ごま油と味噌。醤油も、溜か再仕込み醤油が追加で欲しい。あとはねー」
ワクワクしながら指折り数える使冴を、伊純が引き気味に眺めた。
「もれなく重くて、嵩張るもんばっかじゃねぇか。通販で良くねぇか?」
「通販は種類が少ない。自分で見て選びたい!」
勢いで訴えた使冴を、伊純がきょとんと見詰める。
俄かに笑いだした。
「いいよ。じゃ、でっかいホームセンター行くか」
「おぅ!」
頭を撫でてくれる伊純に、使冴は満面の笑みを返した。
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