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第29話 お買い物デート
伊純が連れてきてくれたのは埼玉県新座市にある大型ホームセンターだった。
関東最大規模を誇る広さで、駐車場も充実している。
「人が多そうだけど、大丈夫なの?」
「多いつっても、都内の観光スポットに比べたら、たかが知れてるだろ」
「そうだろうけど」
平日の昼間なのを考慮に入れれば、許容範囲なんだろうか。
何にせよ、連れてきてくれるんだから、問題ないんだろう。
「生活用品コーナーと食料品は別フロアか。全部一階だな。どっちから回る?」
「生活用品から! 一通り買い物したら荷物、車に積んで、食料品のフロアに行く!」
一番大きなカートを持って、使冴は早速、店内に入った。
「待て、カートは俺が押すから。使冴は商品、選べ」
「わかった、ありがと!」
一先ずは洗剤コーナーに向かう。
床拭き用と窓拭き用と、水垢掃除用のスポンジが欲しい。
「なんで、洗剤の場所、知ってんの? 来たこと、あんの?」
「こういうホームセンターって、商品の並びが大体、決まってんだよ。それっぽい所に行けば、当たる」
「来慣れてんな」
洗剤の成分表示をじっくり読んで、厳選する。
「マシュマロハウスは、基本の掃除用具は一式、会社用があったんだけどさ。細かいもんは個人で準備しても良くて。仕事で使うなら経費で落としてくれっから。使い勝手がいいの、探して使ってたんだ」
「へぇ、マメだな」
気に入った洗剤をカートに入れて、次を探す。
「洗剤や掃除道具だけじゃねぇよ。俺のお客さんは料理目当ての人が多かったから、調味料は持参してた。だから、アレルギーや宗教上使えない食材とかの事前チェックは大事でさー」
洗剤の近くに置かれている、細い歯ブラシのような掃除用具を見付けて立ち止まった。
「うわー、これ懐かしい。よく使ってたなぁ。蛇口周りの汚れとかさ、洗剤で浮かせてから、これで優しく擦ると汚れが綺麗に落ちるんだよ。毛に腰があるのに漆器やステンレスを傷付けないから重宝してさー。今のマンションでも使えるかな」
御影家の洗面台の蛇口を思い出しながら、使えるか考える。
伊純が使冴の頭をポンポンと撫でた。
「ん? 何だよ、急に」
「いや。仕事、好きだったんだなと思って」
伊純が微笑んだりするから、ちょっと照れくさい。
使冴は目を逸らした。
「まぁ、な」
「使冴が人気だったのって、天使な見た目だけじゃねぇな。仕事内容も、天使すぎる家政夫だったんだろうな」
「は? へ?」
「一緒に住んでれば、よくわかるよ。使冴が作る飯が美味いから、外食も宅配もしたくねぇ。部屋がいつも綺麗で居心地いいから、外に出たくねぇ。布団もフカフカで寝心地いい」
伊純が普段しないような顔で笑う。
そんな風に仕事を褒められると、嬉しくて何も言えなくなる。
「洗剤、もういいのか? 他には何が欲しいんだ?」
「ん、もうちょっと、見たら。窓用も見る」
カートの先を引っ張って、伊純より前を歩いた。
(家事代行の仕事、今でも好きだけど。俺はもう、伊純が住んでるあの家だけで、いいや)
大好きな人が住んでいる家を綺麗にして、美味しい食事を作る。
そういう生活ができればいい。
使冴は、するすると後ろに下がって、伊純に並んだ。
カートの取っ手を握る伊純の手に手を重ねる。
伊純が、使冴の手を握った。
「窓用洗剤のあとは? そういえば、お前の部屋のラックって足りてる? ついでに見てく?」
「俺のは、足りてる。そもそも荷物ねぇし」
体一つで拉致られたので、服も何もかも、準備されたものを使っている。
「……次、服でも買いに行くか」
「ん、行く」
指を絡めて、きゅっと握る。
恋人みたいに繋いだ手が気になって、会話どころじゃなかった。
(こんな日が、ずっと続けばいいのに)
日用品を一通り、見て回った。
欲しかったものは、とりあえずゲットできた。大きなカートが山盛りだ。
「どーやって運ぶんだよ、これ」
「段ボール、もらおーぜ。二個くらいあれば、全部入るだろ」
呆れ気味の伊純の後ろに、クッションが見えた。
「このクッション、部屋にあるのと似てる」
使冴の部屋には大きなビーズクッションがある。
一人用ソファと呼んで過言でないクッションは、座ると体を包んでくれる感じが絶妙で、動けなくなる。
「俺の部屋にあるクッション、マジで人をダメにするよなぁ。あそこに座ってると、寝ちゃうもん」
「時々、クッションで寝落ちてるよな。だから風邪ひくんだよ」
「ひいてねぇよ。ちょっと鼻がツンツンするだけ。クッションて何か、ぎゅってしてたくなる」
「リビングにいる時も、よくクッション抱いてるよな。好きなん?」
「あ、あれは……」
伊純がよく背もたれに使っているクッションに、匂いが沁みているからですよ。とは、言いづらい。
「好きですね、クッション……」
「何で敬語? それ、欲しいなら買ってく?」
「いや、そういう無駄使いは、よくねぇから……」
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