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第33話 衝撃の結末
きっと頭に怪我をしてる。
そのせいで、伊純の顔が血で汚れている。
使冴に駆け寄ると、伊純が手枷を外した。
「伊純、どうやって、ここに……」
「ん、あれ」
伊純が顎で、くぃと後ろをさす。
倫太郎に銃を向ける匠の姿かあった。
「匠、手前ぇ」
倫太郎が匠を睨み上げる。
「白玉のおじきが投降した。俺はDissolveの命令で、アンタに銃を向けてる」
匠の顔が、いつもと違う。
その引き攣れた表情に、使冴の中に不安がよぎった。
倫太郎と匠が睨み合う。
不意に、倫太郎が息を吐いた。
「隠れ蓑の白玉組は瓦解したか。頃合いってコトだな」
「約束の期限だ。だから、アンタと一緒なんだ。今が、その時だよ」
匠の言葉に、倫太郎が目を見開いた。
「そうか。だから匠が、俺に銃を向けてんのか」
倫太郎が、安堵した顔で笑った。
匠が銃を構え直した。
「妙なコト、考えんなよ。Dissolveの別働が建物を囲んでる。逃げるのは無理だ。抵抗しなきゃ、危害は加えねぇ」
扉の向こうに、複数の足音と気配がした。
伊純の言葉に、倫太郎の口端がわずかに上がった。
「いいぜ、匠。やれ」
倫太郎の声に反応して、匠が引き金を引く指に力を籠めた。
「ダメだ、兄貴!」
使冴が動くより早く、匠の銃が倫太郎の頭を撃ち抜いた。
倫太郎の体が床に崩れ落ちて、動かなくなった。
「な、んで……」
「砂川、手前ぇ! 何してやがる!」
呆気にとられる使冴の隣で、伊純が動いた。
後ろに下がった匠が、自分のこめかみに銃口を当てた。
「根黒組は倫太郎さんを殺しただけじゃ、止まらねぇ。精々、本物の黒幕に怯えてろ」
「本物の、黒幕……?」
使冴は、床に転がる倫太郎を見詰めた。
さっきまで饒舌に話していた倫太郎が、頭から血を流して倒れている。
目を瞑ったまま、微動だにしない。
「逮捕後の身柄は保証したはずだ。銃を降ろせ、砂川」
伊純が少しずつ匠に、にじり寄る。
匠が銃を自分に向けたまま、使冴を見詰めていた。
「手前ぇが気に入らなかったよ、使冴。生まれた時から持ってる奴は、求められて望まれる。同じ施設で育った孤児のくせにな」
「兄貴、俺は……」
「白玉組はなくなった。手前ぇの|柵《しがらみ》はもうねぇよ。好きな場所で幸せにでもなってろ」
匠が見せた笑顔が、施設の頃の兄貴の顔に見えて、使冴は動揺した。
「一緒に、やり直せるんだろ、だったら」
「俺には最初から倫太郎さんしかいねぇんだよ。この人とは、最期まで一緒だ。それが俺たちの、約束だった。だから……」
匠の目に涙が溜まっていた。
「だから、……悪かったな、使冴」
匠の指が引き金を引く。
まるでスローモーションのように動く。
止めようと思えば止められる距離だったはずなのに。
銃声が響いて、匠の体が倫太郎の上に倒れ込んだ。
「なんで、なんでっ、匠兄貴!」
近寄ろうとする使冴の体を、伊純が必死に抱き抑えていた。
すぐに伊織が指揮する別働が雪崩れ込んで、現場検証が始まった。
倫太郎と匠の姿を見付けても、伊織の顔は変わらなかった。
「兄貴、悪い。俺が甘かった」
「いいや……」
伊純が悔しそうに伊織に頭を下げた。
布を被せた担架で運ばれていく二人の遺体を見送る。
「拳銃自殺に割って入れば被害者が増えるだけだ。仕方ねぇよ。それに、白玉のおじきの話通りだ。多少は覚悟してた」
「店長の? 店長は結局、根黒の人間だったの? それとも御影の味方?」
前のめりになる使冴に、伊織が苦笑して見せた。
「さぁ、どっちだろうね。それは、これから本人に聞くんだけど。倫太郎と匠の自害は、組長指示が出ているはずだと、話してくれたよ」
「組長は、倫太郎さんじゃないんだ」
倫太郎は確かに自分が組長だと話していた。
「根黒の組長は単独じゃないらしい。今の頭が死ねば、次に挿げ代わる。危険な状況になれば命を捨てて、秘密を堅持する」
「白玉組がバラけた時点で、自分の役割が終わったと悟ったのか。命を粗末にする連中だな」
伊純が理解できない顔で舌打ちした。
「だから……」
倫太郎は、あんなにあっさり死んだんだと思った。
(でも、だからって、自分の命すら、あんなに簡単に捨てられんのか? それが根黒組のやり方なのか)
怖さと共に怒りが湧いた。
それを強要する根黒の幹部連中も、受け入れて死を選んだ倫太郎や匠にも、腹が立つ。
(最期に悪かったなんて言われても、俺は返事してないのに。もう二度と、届かねぇじゃねぇか)
倫太郎だって、本当は何が欲しかったのか、わからないままだ。
(もっと話したら、わかったかもしれねぇのに。なんで、死んじゃうんだよ。有り得ねぇだろ)
考えれば考えるほど腹が立って、悲しくなる。
(こんなの、もう二度とあってほしくねぇよ。……父さん)
最期に生きろと言った、死んじゃダメだと言った父の言葉を思い出す。
俯いて考え込んでいた使冴の顔を、伊純が抱いた。
「現場は俺たちが引き継ぐから、二人は帰っていいよ。詳細の確認は後日ね。疲れたろうから、今日はゆっくり休んで」
伊織が使冴の頭を撫でた。
「また騙して利用した。ごめんね、使冴君」
「……怒ってるよ、俺」
「うん、ごめん。二回目は、許してもらえないかな」
「許さねぇよ。鶏モモの美味しい油淋鶏作って待ってるから、ちゃんとマンションに帰って来てよ。完食するまで許さねぇから」
伊織を見上げる。
やっぱり困った顔で笑っていた。
「俺、ムネかササミが好きなのになぁ」
「知ってる。鶏モモが好物になるくらい美味しいの、作って待ってるから」
使冴の目に溜まった涙を伊織の指が拭う。
「ちゃんと帰るから。それまでに使冴君は伊純に甘えて、吐き出して、溜め込まないようにね」
「……わかった」
抱き寄せてくれる伊純に縋り付いて、使冴は頷いた。
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