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第43話 幹部会前日 嘘

 ミックスベジタブルたっぷりのチキンライスにフワフワ卵を乗せる。  昨日、作ったキノコのクリームスープを添えて、出来上がりだ。 「キノコは、大丈夫?」 「平気だよ。キノコみたいに、味がない食材が好き」 「そうなんだ。春雨とかも?」 「うん、好き」  オムライスを食べる一口も、小さい。  伊純や伊織は早食いで豪快に食べるから、真逆だなと思う。   (酢豚が好きな倫太郎さんは、どうだったっけ? 覚えてないや) 「本当に使冴君しかいないんだね」  倫太郎が部屋の中を見回した。   「伊純と伊織兄ちゃんは本部に行ってる。明日まで帰って来ねぇよ。伊織兄ちゃんは、数日帰ってこないと思うけど」  事件があるたび、事後処理に追われて貫徹する伊織が心配になる。 「そういうの、僕に話していいの?」 「今更じゃん。てか、倫太郎さんのが、俺より詳しいんじゃねぇの?」  使冴はいまだに本部の場所すら知らない。  幹部会襲撃も、詳細を知らされていない。  漏れてマズい情報を持っていない。 「それより、倫太郎さんが来た理由が知りてぇんだけど」 「理由かぁ。使冴君に会いたかったから」  スープをちびちび啜りながら、倫太郎がしれっと言い放った。 「幹部会が終わるまで、この部屋にいていいよ」  使冴の言葉に、倫太郎が目を向けた。 「伊織兄ちゃんからの伝言。できれば兄ちゃんが戻るまで、いてほしい」 「僕をDissolveで拘束したい?」 「それもあるんだろうけど。伊織兄ちゃんが倫太郎さんと会いてぇんだって」 「ふぅん……」  倫太郎が、相槌を打ったきり、黙った。  恐らく倫太郎は、幹部会が終わるまで安全に身を潜めるつもりだ。  そのために、使冴に会う口実で、このマンションに潜入する。  というのが伊織の見立てだ。 『使冴君は、俺が戻るまで倫太郎をこの部屋に繋ぎ止めておいて。話したいことがあるんだ』  自分を使えとゴリ押しした使冴に、伊織がくれた仕事だ。  伊織が役割をくれたらから、大反対だった伊純も渋々ながら頷いてくれた。  オークションの大事な商品である使冴に、倫太郎が危害を加えはしない。という見解がダメ押しになった。 「……僕も伊織に会ってみたいな」  倫太郎が、ぽつりと呟いた。 「え? なんで?」  意外な返事すぎて、疑問しかない。 「使冴君にお願いがあるんだけど、伊純から聞いてる?」  使冴の問いかけをガン無視して、倫太郎が楽しそうに身を乗り出した。 「お願いって、ラプンツェルの一幕?」  伊純に送られていたファンシーなメールを思い返す。 「そう、それ。使冴君が協力してくれたら、明日の幹部会にDissolveが襲撃を掛けやすくなるよ」  胡散臭すぎて、返事ができなかった。  そんな使冴を眺めて、倫太郎が口端を上げた。 「幹部会に出席している全員が死んでも、僕さえ生きていればオークションは回る。主催者名簿と顧客名簿を流しておいたから、Dissolveは把握しているはずだ」 「倫太郎さんは、根黒組の幹部を全員、殺してぇの?」 「無能な傀儡は不要だよ。いるだけ害になる」 「根黒組を自分のモノにするため?」  不意に、倫太郎の目が伏した。 「自分のモノ……そうだね。僕の思い通りに動く組織にしたいから、かな」  使冴から逸れた瞳に、少しの違和感があった。 (なんだろ、この感じ。倫太郎さんの言葉は、いつもどこか、引っ掛かる)  横浜の墓地で話した時から、ずっと。  何かが、使冴の中で引っ掛かっている。 「それが、約束だから。今も昔も、僕が倫太郎でいる理由だから、だよ」 「約束……」  匠も最期に口にしていた、約束という言葉。  きっと、匠と二人の倫太郎の間では、大切な言葉なのだと思う。 (この人、俺に嘘を吐かないように話しているんだ。けど、何かを隠しているから。だから言葉や会話が、ぎこちない)  質問をガン無視して話を変えたり、はぐらかして返事をしなかったり、言い回しを中途半端にして誤魔化すのに。  苦手な食べ物やアレルギーを正直に話したりする。  何気ない会話の歪さが、やけに引っ掛かる。 「約束って、何? 匠兄貴や死んじゃった倫太郎さんとの、約束?」  だから少し、突っ込んだ質問をした。  倫太郎が口元に人差し指をあてた。 「今は、まだ内緒。だけど、僕らは使冴君が好きだから。そのうちには、教えてあげるよ」 「僕ら?」 「そう、僕ら」  倫太郎が言う僕らには、匠は含まれるんだろうか。  死んでしまった倫太郎と、目の前にいる倫太郎は、どんな関係だったのか。  そもそも根黒倫太郎とは、何者なのか。 (今は言えないから、内緒。約束を守るために、内緒にしなきゃダメなのかな。きっと嘘は吐いてないんだけど。はぐらかすのが上手いから、俺には真意がわからない)  もっと長い時間を一緒に過ごさないと、わからないんだろうと思った。 「……わかった。協力するよ」  総ての疑問を飲み込んで、使冴は返事した。 「ありがと。使冴君のそういうところ、好きだよ」  はにかんだ倫太郎は、使冴が知っている昔の倫太郎だった。

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