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第11話
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「小僧の次は、子爵か。……貴様、何の用だ?」
晃の声は低く、地を這うような苛立ちを孕んでいた。見せつけるように、龍馬の柔らかな桃尻を指が食い込むほど強く掴み上げる。
「ぁ……っ……」
悲鳴に近い吐息が漏れる。それを見た子爵は、嘲笑を湛えた瞳で龍馬を見つめ、甘く、毒を含んだ声を投げかけた。
「龍馬、可哀想に。……そんな男より俺の元に来れば、もっと優しく、心ゆくまで可愛がってあげるよ? さあ、鞍替えはどうだい?」
「くら、がえ……?」
その言葉が落ちた瞬間、空気が凍りついた。晃から溢れ出したのは、もはや怒りを超えた「般若」のごとき深い怨嗟と殺意。龍馬の背筋に冷や汗が伝い、心臓が不安で早鐘を打つが、子爵はそれを楽しむかのように一歩、距離を詰める。
「俺なら、君を飼うのにそんな酷い真似はしない。給料も破格だ。……どうかな?」
「ぼく、は……当主様の、ものがいいです」
「……何故かな?」
(何故?……そんなの、……)
「僕を拾い、今日まで生かしてくれた恩があります。それを、簡単に捨てることなんて……」
「それは『当主』という椅子に恩があるだけだろう? もし、あの日君を拾ったのが俺だったら……君は俺を選んでいたのかい?」
引き下がらない子爵。龍馬の鼻腔を、晃の放つ重厚なムスクと、子爵が纏う甘いバニラの香りが混じり合い、犯すように突き刺さる。
子爵の靴が土を踏みしめ、一歩、また一歩と草を蹂躙しながら近づいてくる。
「俺には、その所有権を奪う権利すら、少しも無いというのかな?」
「や、めて……下さい……」
「公爵様。……その龍馬を、買い取りたい。いくら出せばいい?」
その傲慢な要求に、晃の理性がついに弾けた。
「触るなッ! ……これは、俺の……俺だけのものだッ!!」
怒号が静かな森を震わせる。しかし、子爵は顔色一つ変えず、むしろ愉快そうに唇を歪めた。
「はいはい。公爵は相変わらず、感情の制御ができない子供だな」
挑発的に笑いながら、子爵はそっと、龍馬の頭を「所有者」のような手つきで撫で下ろした。
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