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第35話

「あれ、蒼太?」 「拓海…」  帰り道、蒼太は偶然にも拓海と遭遇した。 「偶然だね、どこ行くの?」 「家に帰るところだよ」 「そっか、ちょっと寄ってもいい?」  拓海の提案に蒼太は一瞬迷うも「うん、別にいいよ」と笑顔で頷いた。 「珍しい、蒼太の家が俺の部屋みたいに散らかってる」  部屋に上がった拓海は、第一声に驚きの声を発した。藍との一件があってからというもの、心に余裕がなかった蒼太は部屋を片付けることすら出来ていなかった。そのためリビングも寝室も散らかり放題で蒼太にしては珍しいことだった。蒼太は苦笑しつつ「ここ数日片付ける気が起きなかったんだ」と床に散らばっている衣服を拾い上げた。 「何かあったの?」 「ちょっとね」 「もしかして藍…?」  蒼太の手がピタリと止まる。「拓海は鋭くて参っちゃうな〜」と蒼太は頭をかいた。 「藍のお父さんの事、すごい話題になってるよね?俺も当然知らなかったし、蒼太は知ってたの…?」 「ううん、俺も知らなかったよ」  心配そうに蒼太を見つめている拓海の大きな瞳に、蒼太は胸が暖かくなるような嬉しさを感じた。拓海は蒼太に何かあると必ず親身になってくれた。今だってこうして心配してくれている拓海の姿が本当に嬉しくて、蒼太の口元が緩んだ。 「実はさ、さっき藍に会ってきたんだ」  蒼太が打ち明けると、拓海は小さな声で「…そう…なんだ」と返した。 「藍にね、俺の気持ち話したよ。そのせいで藍を困らせちゃったけど、自分の気持ちをちゃんと伝えられて俺は良かったと思ってる」  拓海の隣に腰を下ろした蒼太は、先程の藍とのやり取りを思い出し胸が熱くなった。結果として藍に想いを打ち明けることになったが、正直に自分の気持ちを伝えられただけで蒼太は満足だった。藍を傷つけるかもしれないという理由で自分の気持ちを隠し続けてきたが、本当は藍に気持ちを伝えることが何より怖かったのだ。藍に軽蔑される事が怖くて、蒼太は自分の気持ちを閉じ込めていた。けれどいざ気持ちを伝えたら清々しい気分だった。藍の反応が蒼太の想像とは違っていたこともあるが、藍に嘘をつかなくていいという事実が何よりも蒼太の心を軽くしていた。 「藍とは付き合うの?」  拓海は蒼太の顔を見ることなく、そう尋ねた。 「んー、藍の答え次第かな…。だけど…きっと付き合うことはないと思う」 「藍から答えはもらってないの…?」  少し驚いたように蒼太を見た拓海に、「うーん…」と蒼太はなんと答えたらいいのか迷った。 「ちゃんとした答えはもらってないけど、藍は俺の事好きなのかもしれないみたい」 「何それ?そんな曖昧な返事しか聞いてないの?」 「藍は自分の気持ちにすごく戸惑ってるんだ。男を好きになることに否定的だったから尚更さ」  蒼太の言葉に、拓海は納得のいかないような顔をしている。拓海の反応に少し不思議に思った蒼太は「なんか納得いってない…?」と尋ねた。 「納得いかないよ、蒼太の事が好きなら自分の気持ちに向き合わないとただ蒼太を振り回してるだけになるし…昔から藍はずるいんだよ」 「ずるい…?」  蒼太は思わず首を傾げる。 「いつも蒼太のこと独り占めにするくせに、当の本人は蒼太のこと全然興味無いみたいな素振りでさ。蒼太を特別に想ってるくせに表に出さないところがほんとずるいと俺は思う」 「拓海から見た藍は、俺の事特別に想ってるように見えてたの…?」  蒼太はまさかという気持ちで拓海に問いかけた。 「だって蒼太が俺達と話してる時とかも、わざわざ蒼太と話したいためだけに全然親しくない俺達の中に入ってきたこともあったし、放課後だって蒼太の部活が終わるまで待ってることも多かったじゃん」  確かに拓海の言う通り、高校の頃の藍は気まぐれで蒼太の元に寄ってくることがあった。部活動に入っていない藍が蒼太の部活が終わるまで教室で一人待っているなんてこともあった程だった。けれどあの頃から藍の特別であったなどとは到底思えなかった蒼太は「あれは単に藍の気まぐれだよ」と否定した。 「蒼太ってなんでそんなに謙虚なの」  拓海の呆れたような視線が蒼太を刺した。 「なんでって…」 「俺からしたら藍の好意なんて丸わかりだったよ、俺が蒼太のこと特別だって思ってるから尚更ね」  拓海のストレート過ぎる言葉に、蒼太は「照れるなぁ」と頭をかいた。 「嫉妬だよね」 「えっ?」  脈絡のない嫉妬という言葉に、蒼太からは上擦った声が漏れ出る。 「俺が藍に対してぐちぐち言っちゃうのも、結局は嫉妬なんだ。藍は全部を持ってるのに、それなのに蒼太とも仲良くなって…俺からしたら親友を取られた気分だった」 「拓海…」  藍に嫉妬するまで自分の事を想っていてくれていた拓海に、蒼太の胸は暖かさを増していく。蒼太からしても拓海は心から大切だと思える親友だった。最初は共通の趣味がきっかけで仲良くなった関係だったが、拓海と過ごす時間が増えるにつれ拓海の隣に居ることの安心感を実感するようになった。 「俺って重いよね」  遠慮がちに眉を下げた拓海に対して、「そんな事ないよ」と蒼太は微笑んだ。 「お前は本当に友達想いの良い奴だよ」  蒼太は心からの言葉を拓海に向けると、拓海は少し照れくさそうにはにかんだ。

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