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第40話
「もうむり…動けねぇ…」
ぐったりと身体を横に倒した藍、蒼太はそんな藍の髪を優しく撫でると、藍の身体が冷えないようにと上から毛布を掛けた。蒼太も布団の中へ体を入れ、藍の隣へ横になった。
「寝ていいよ、後処理は俺がやっとくから」
今にも意識が途絶えてしまいそうなほど藍はうつらうつらとしており、蒼太は愛おしさから瞳を細める。
「ん…なぁ、人間の細胞って四年でほとんど入れ替わるらしいよ」
「…えっ?さ、細胞…?」
突然の藍の発言に理解が及ばなかった蒼太の口からはすっとんきょうな声が漏れる。藍はそんな蒼太をお構い無しに話を続けた。
「だから四年前の自分はほぼ別人なんだって、お前はどう思う?」
藍が何を意図してこの話題を出したのか蒼太には分からないが、蒼太はとりあえず藍の質問に答えることにした。
「んー…まるっきり別人だとは俺は言い切れないなぁ。確かに四年前の自分とは多少なりとも考えが変わってるところもあると思うけど、それでも変わってないところの方が多い気がするし」
蒼太は四年前の自分を振り返った。あの頃はまだ大学生であり、教師になるためにそこそこ真面目に勉学に励んでいた気がする。そしてあの頃は色々と女性を取っかえ引っ変えしていたな、とあまり思い出したくない過去に目を瞑った。
しかしあの頃を振り返ると、周りの環境はかなり変わった事に蒼太は気がついた。諦めていたカメラマンの仕事を受けることができ、何より藍との関係に大きな進展があった。四年前の自分に藍と両想いになったと伝えても信じてくれないだろうな、と蒼太は苦笑する。
「俺もそう思うよ、あの頃の自分が別人だなんて到底思えない」
藍はゆったりとした口調でそう言った。結局のところ藍は何が言いたいのか、脈絡のない藍の話に「急にそんな話してどうしたの?」と蒼太は首を傾げる。
「…四年前の自分と今の自分が別人なら、お前を好きになった事も説明がつくと思った…。だってあの頃の俺は俺じゃないんだから価値観だって違うだろうし、だけど四年前の俺も、十年前の俺も俺には変わりないんだ。ゲイである父親を嫌悪してた俺と変わりないのに、今は俺自身が男を好きになってるなんて細胞が入れ替わって別人になってる説を押すしかないだろ」
今にも寝入ってしまいそうな藍の声色、藍は「ふぁ〜〜」と一つ大きな欠伸をした。
藍は未だに何故男である蒼太の事を好きになったのか理解出来ていないのだろう。しかしそれは蒼太も同じだった。何故男である藍を好きになったのか分からない。蒼太は藍の冷たい足に自身の足をぴと、と押し当てた。
「恋が人を変えるのかもね」
蒼太が一言そう口にすると、藍は眠そうに蕩けた瞳を細め「ふふっふははっ」と控えめに笑った。
「なんで笑うんだよ」
「だってなんか面白いから」
くすくすと笑いを零している藍の姿に、蒼太はなんて幸せなのだろうと実感する。「笑うなよ、恥ずかしいだろ」と藍に文句を言うが、そんな蒼太からも自然と笑みがこぼれ落ちた。
「俺だって元々女性が好きだったのに藍に会ってからは藍しか好きになれなかった。藍が俺を変えたんだよ、だからお前が男を好きになっちゃったのも俺のせいにしていいよ」
蒼太は藍の柔らかい髪を撫でながら微笑んだ。蒼太の手が心地いいのか、藍は瞼を閉じ「んふふっ、だったらお前のせいでいいかぁ」と呟いた。
「誰かを好きになるってこんなに暖かいんだな、お前を好きになれて良かった」
そう口にした藍は、なんとも穏やかな笑みを蒼太に見せた。その微笑みは、蒼太がこれまで目にしてきたどの藍よりも美しく、心を打つものだった。藍のその笑みは確かに蒼太に向けられているものであり、決して偽りのない心からの笑みだった。
蒼太は溢れんばかりの愛おしい感情を込め「俺もだよ」と誰よりも愛おしい存在である男に向け微笑んだ。
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