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兄様が見つけてやるからな⑤

 俺のアルファフェロモンに気圧されず立派に仕舞われていたネクタイを褒め讃えよう。  ミカフォニスの王都私邸の階段を上がり、最も日当たりのいい部屋へ向かうと転がるようにして可愛いハニーキャンディーが飛び出して来た。 「兄様……!!」 「ああ、ラディ……、分かるのだね」  薄い残り香ではない、彼が逢いたくて堪らなかった番のフェロモン。  ヒート明けでまだ体の具合が万全ではないラディは床へとぺしゃんと座り込んでしまう。 「兄様はお前との約束は必ず守るよ」 「これが、番様の……」  アーシュレーのネクタイを差し出し、確かにラディへと握らせる。  頬ずりをして涙を流す琥珀ちゃんを抱き上げる。また軽くなってしまった。 「体が冷えてしまう、部屋に戻ろう」  開け放したドアを越え、うっとりと薔薇色に頬を染めるラディにこちらも穏やかな気分になる。  とろとろに蕩けているピーチピューレちゃんをベッドに横たわらせ、ヒート時と同じ施錠をして枕元の椅子へと戻った。 「ラディ、ラディ、兄様の声が聞こえるかい?」 「何とか……?」 「おやおや、その様子では半分も聞こえていないね。──ラディル・ミカフォニス、お前の番様のことで重要な話だ、私の方を見なさい」  薄っすらとアルファフェロモンを流すと、ぱちぱちと睫毛が数回合わさる。  ごめんよ俺の蜂蜜ちゃん、夢の世界へ旅に出たい流れ星。  お前の運命たる番との障壁を先に知っておきなさい。 「私から聞くのとお前が会うまでの楽しみにするのと、どちらがいい?」 「兄様がそのようにお尋ねになるからには、僕の番様にはご事情がおありなのですね? お話ください」  いい子だねラディ。  大切にアーシュレーの品を胸に抱きながら、きちんと兄様の意図を組んでくれる。  愛してるよ、我が弟。  だからこそ兄様は万難を排してお前達の恋を見守ろう。 「彼はね、今日(こんにち)までベータとして生きてきた少年だ。お前のヒートの残り香によって覚醒したのだろう」 「僕が……番様の人生を狂わせてしまったのですか……?」 「違うよラディ。彼は君に会うのを待ちわびている。彼の心は私が運命の番の所在を把握していると勘付いていた。この兄に対してライバル心を燃やすのだ。早くお前に会いたいと瞳が物語っていたよ」  第二性の欲求は直情的、動物的だと言われ、ベータだった少年が受け入れるには時間も掛かるだろう。  目が合った瞬間、匂いを感じ取った刹那に、この人だと分かると言われる運命の番。相性のいいフェロモン所有者の組み合わせでしかないと言われればそれまでの、理性を凌駕してしまう衝動的な関係に抵抗や嫌悪感があったとして、誰が責められる。  面会させれば早い話かもしれないが、俺はどちらにとっても最高の出逢いにしたかった。 「でもね、彼はまだ混乱している。兄様が時期を見てお前達を必ず会わせるから、それまで待っていてくれないか?」 「どうか、番様にお伝えください。心からお待ちしていると──」  恋しくて寂しくて泣いてしまうのだね。  春の青空が曇ってしまっている。  俺の雨宿りの新緑よ、今はどうか耐えてくれ。 「ラディ、彼は私の後輩であり、いずれお前の先輩になる」 「何年生──緑は、3年生でしたね!」 「そう、橙が1年生、緑が3年生だ」 「兄様がその青色をお召しになっている間に、僕はリンド・ゴールドに通えるようになるでしょうか?」 「必ず。そのために私がいるのだよ」  俺の愛する弟、ラディ。  お前がオメガに生まれたことを幸せだと感じられるように、兄様は祝福を告げる鳥になろう。 「番様にお手紙を書いてもいいですか?」 「渡す日を私に委ねてくれるのなら」  そう答えるや否や、ラディはベッドから抜け出して机に着いてしまう。  困ったちゃんだね俺のプリン・ア・ラ・モード。しかし兄様はその溌剌とした姿が見たかったんだよ。 「書き終わったら兄様のお部屋にお届けに行きます!」 「便箋は1枚まで、書き直しは5回までだ」 「はぁい……」  頬を膨らませてなんて愛らしいんだ胡桃リスちゃん!  兄様は静かに退散するとしよう。  同じ階の自室に入ると、夕映えのグラデーションを経て夜の帳が下りていた。窓の外の静謐な庭園を見下ろす。  俺が為すべき務めを果たし、この広く美しい屋敷やミカフォニスの領をあの2人のものにする。  アーシュレーに無理はさせられないが、あの様子ではラディの猶予期間は短いだろう。  成すべきことを考えよ。 「弟夫夫にとって最善の選択を」  どこへ行くかなどまだ決めていない。  遠いところとだけ──、俺は弟にはまだ言わない。

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