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第48話 前夜
師団の取り扱いに関する協議。
そう、書記官は言った。
翌日、アーネストは演習での魔力使用に関する報告のため本部を訪れていた。魔力使用に問題はなく、裸眼での騎乗移動には制限があるが、補助器具 があれば問題ないと考えられること。
そこまで報告したアーネストに、書記官はそう言った。
「先日の事故のことなど受けまして、師団ならびに師団長の扱いに、これまでの我々の方に問題があっただろうとの認識です。」
「――それは、どのようなことでしょうか。」
「たいしたことではありません」
書類を揃えながら書記官が言う。
「ただまあ、今後間違いなく皆さんにも影響することになりますので、あらかじめそのような会議があるということだけはお伝えしておくものです。」
「それは、私や、ウィズが参加することは、できるのでしょうか?」
書記官が、上の方に目線をやって、少し黙る。
「――どうでしょうね……。外からの見えかたの問題ですので、あえて師団の皆さん以外の方で議論されるのではないかと思います。それに……、言いづらいことですが、師団長殿を守るためにもご参加いただかない。という側面もありますので。……ご理解ください。」
「私を、――守る?」
言われた言葉を十分理解する前に、腹の底が、一気に冷えた。
――何から守るというのか。
外からの見え方。
つまり、昨日砦で耳にした、噂話のことか。
「すみません、これはいうべきではありませんでした。……あまり気になさらないでください。」
そう言って書記官は立ち去り、それから、どうしようもなくなって、アーネストは手のひらで目を覆った。
終わりだ。
あれほど守りたかった師団が、もう、自分の手の届かないところに行ってしまう。
そんな予感で、うまく呼吸ができなかった。
気づくと、執務室にはいつの間にか夕陽が差し込んでいた。
見えづらい右目を――もう、取り繕う必要はなかった、庇いながら、ウィズの書いたフィードバックを確認し、本人への伝えかたについて助言を書き込む。
「――見えづらいわけだ。」
暖炉の火はいつのまにか消えて、室内はしんと静まり返っていた。
書類から目を離すと、考えないようにしていた事がまた蘇ってきた。
昨晩、ふたたびダートと二人きりになった演習の帰路、砦で耳にした笑い声や断片的な言葉が、アーネストの頭の中を占領し続けていた。
当然集中力が保たず、何度か馬の足が止まる時があった。
その度にダートが馬をなだめ、アーネストは謝るしかなく、師団まで帰り着いた時には、どっと押し寄せた疲れに愕然としたものすら感じた。
魔法は、まだ自分を見限っていない。
これは、自分が積み上げ、自分だけで作り上げてきたものだから。
でも、――それだけだ。
馬も、師団も、自分の体も。何もかも、指の隙間から落ちていく。
「――――――」
胸元、小さく震え始めた共鳴具に、そっと触れた。
――これは、ここにある。
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