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第50話 式
アーネストは今まで通り、いつも通りに執務をこなした。
予算については、過去の書類を引っ張り出して、セドリックと積み方を確認した。
人事については、ウィズの裁量に任せることで良いと判断した。ダートの叙任まで終えれば積み残しもない。
備品関連は、最近ダートがスコットからずいぶん引き継いでいることを知り、ヘイデンに何を任せるべきか、少し考えることにはなった。
それで、推薦状の提出から二日後、ダートへの騎士叙任の日。
ウィズの副師団長推薦が異例の速さで承認され、その通達がアーネストの元に届けられていた。
「――早かったですね。」
任命状を受け取りながら書記官に言うと、なんと言うことのない顔で書記官が返してきた。
「お急ぎでしたでしょう。――おそらく陛下も。」
少し首を傾げてから陛下のお心を推し量った書記官は、いつも通り温度のない目線でアーネストを見上げてこう続けた。
「任命式はお早めになさるのが良いかと。師団長に代行を任ずとのこと、陛下より賜っています。」
ウィズが、問題なく副師団長を拝命出来る。それが嬉しいことのはずなのに、腹の奥に何か重たいものを詰められた気持ちになった。
それでも、陛下が、アーネストがその手で師団を整えることを許してくださったことには、間違いがない。
そのことの意味をもう一度自分の中で噛み締めて、――心から陛下のお気持ちに感謝できた。
「はい。承りました。」
アーネストは、騎士の正装に、ダートが磨いてくれていた装備を身につけて中庭に立っていた。
目の前には同じく正装に装備姿のダート、それから、ダートの指導を任せているスコット。
この日はダートの騎士叙任の日だった。アーネストが、陛下に代わり任ずることになる。
この予定は、スコットからダートへ伝えられた後、あっという間に室員の中に広まったようだった。
深夜勤明けのヘイデン達も、今夜が夜勤のセドリックも集まっており、思いの外多くの室員達に見守られての叙任式となった。
書記官から預かっていた叙任状を改めて確認し、内容を読み上げる。
初めての叙任代行、正直アーネストとしても、細かいところはこれであっているのかどうかは自信がなかった。
それでも。
「――――国王陛下の御名の下、ここに、ダート・フリードを騎士の身分に任ずる。」
目の前に立つダートに、叙任状を差し出す。
あくまでアーネストは陛下の代行であり、ここではなんの個人でもない。
それでも、これを自分が手渡すことができたことに、我知らず喜びが湧き上がった。
そう、――喜び。
小さく息を吐いて、目線を上げると、一瞬ダートと目線が絡む。
なぜか、喩えようもなく、安心することができた。
今この青年が、正しく騎士に叙任された。
ダートが叙任状を受け取って下がった時、室員以外の見学者も立会人に混ざっていたことに気がついた。
砦での演習を思い出す。
だが、これは誰に何を言われるものでもない。
アーネストは外からの眼を気にしないことにした。
それよりも――
「結構、立会人集まったなぁ」
師団のメンバーでここにいないのは、任務でここを離れている二名だけ。それ以外は全員が集まっていた。
「フリード、沢山の先輩に見守ってもらえて良かったな。こんなこと多分なかなかないぞ。」
なんだか嬉しくなってそう言うと、周りの空気が緩んだ気配があった。
それがこの師団のあり方で、アーネストが作ってきたもので、――フリードに残せるものだ。
鼻先に集まる熱を逃したくて、アーネストは室員達に笑顔を向けた。
「みんな聞いて欲しい。ウィズが今度正式に副師団長に任命されることになった。陛下からの任命ももう正式にいただいた。これだけ人数も揃ってるし、任命式の日取り、決めさせてくれるかな。」
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