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余韻01 迂闊

「――あれ、夢じゃなかったのか……。」  堪えきれずにそう言うと、ダートが真剣な面持ちで言った。 「――どうにかなるかとおもいました。あんなの目の前で見せられて。」 「おまっ、――そ、そんな顔で、そう言うこと言うなよっ」  急に緊張が走り、思わず離れようとした体を、逆に引き寄せられ、唇の触れ合う距離にされる。  キスとも、そうでないとも言える近さに、動けなくなってしまった。 「ずっと」  ダートの目が、アーネストの目をとらえて離さない。 「あなたは、ずっと、こうでした。」 「何……が、」  あまりの近さに、アーネストの口からこぼれる声も、ささやきになる。 「俺の目の前にあなたを置いて、あと一息で捕まる場所に置いておいて、――そのくせ、ずっと知らんぷりでした。」  ダートが言葉を紡ぐたび、かすかにその唇がアーネストの唇を掠め、その刺激がアーネストの背中を滑り落ちていった。  何も言うことができず、息を飲んで言葉の続きを待っていると、ダートが首の傾きだけでアーネストの唇に触れ、すぐに離れた。 「時々。――本当に時々だけ、どうにかなるかもしれないと思いましたが。あの日のあなたを見て、我慢できたので。」  それからまた、軽くアーネストの唇に触れたので、アーネストが顔を上向けてそれを出迎えた。  それまでよりも、少ししっかりとくっついた唇は、ダートがアーネストの顎を捉えてから唇を離したせいで、また間があいた。   「――――っ、なので、今までは、自分のことを信じられました。けど」  ぐい、と引き寄せられ、口を開かされたアーネストは、思いがけず強引に侵入され、喉の奥で小さな悲鳴をあげた。  だが、かつての練習の通りに、口の中の弱いところを丹念になぞられ、唇をくすぐられる間に、アーネストもダートとの反応を確かめ合うキスに夢中になっていった。  長い沈黙の――会話の上では――あと、ダートは挑むような目つきをして、アーネストに宣言した。 「すみません。多分、これからは自分を抑えるのは難しくなります。」 「――ふ、ふはっ……。お前、なんて宣言だよ……。」  あまりの可愛さに嬉しくなってしまったので、真剣です。と言い募るダートに、楽しみにしてる。と返した自分の迂闊さには、その時は到底気づくことはできなかったのだ。

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