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余韻04 踏み込む
そのままダートに立たされ、手を取られたまま川原を出る。
ダートは言葉を放たず、アーネストは、まるで連行されているようだ、と思った。
「な、だ、ダート。……どこ向かってんの」
それでようやくダートが足を止め、アーネストの方を振り向いて、はっきりとした声で言った。
「あなたの家です。」
「――俺んち?」
しばらくアーネストのことを眺めたダートは、目を閉じて軽く頷いた。
「人目のないところへ行きたいです。」
言われて、息が詰まった。
そのまま、なんの準備も整わないまま、アーネストはまたダートに引きずられることになった。
たった一度訪れたことがあるだけのアーネストの私邸まで、ダートは迷うことなくアーネストを連れてきた。
それで、アーネストは戸惑いながらも自宅の鍵を開ける。
この日は、使用人は来ていない日だった。
扉を開けて、家の中にはいる。
「……さむ」
日差しの残り香があった外と異なり、屋内の空気は冷たく静まり返っていた。
ダートを迎え入れようと振り向くと、その途端にアーネストは、ダートの体温に包まれた。
「師団長……。俺は、欲しがってもいいんですか」
肩口に頭を埋めたダートが、くぐもった声でそう言った。
時々驚くほど大人びた顔を見せるくせに、こういう仕草が年相応すぎて、本当に、かわいいなあ。と思ってしまう。
それで、思わず小さく笑みがこぼれた。少しだけ体も揺れた。
温かい体温を抱きしめ返して、笑みの形のままダートに告げる。
「そうしてって、言ったじゃん。」
――次の瞬間。
大きく開いたダートの口が、アーネストの口をふさぎ切った。
無防備だった歯列の間を通り抜けて、熱くてしょっぱいダートの舌が潜り込んでくる。
ぞろりと上顎を舐め上げられ、舌を引きずりだされ、呼吸ごと奪われてアーネストは苦しくなった。
「――!……っ、ん、ん!」
抗議の声を上げると、アーネストの口を食らったまま、ダートの目がアーネストを射抜き、それから大きな音を立てて唇が解放された。
「――はっ、ダート、いきなり」
「ずっとこうしたいと思っていました」
そのままダートの顔がアーネストの耳元に近づき、耳の下から首筋を甘噛みして舐め上げる。
不意打ちの攻撃に、アーネストは声を抑えることも間に合わなかった。
「ふぁ……あ!ちょ、……ぅ、ここまだ、玄関」
急に高められた熱に息を荒げながら言うと、ダートがゆっくりと首元から顔を上げて、言った。
「――寝室まで行ったら、俺は、絶対にあなたを抱きます。」
目線をしっかりと合わせて、ダートにそう、告げられる。
そうなるかと思っていたので驚きはないが、改めて告げられると背中にぞくぞくとしたものが走る。
「練習でも交渉でもなく、番いとしてでもなく。
恋人のあなたを、抱きます」
アーネストは息を呑んだ。
不意打ちだった。
そうしなければならないから、ではなくて、そうしたいから、自分を抱くのだと、今この男に宣言されたのだと気づく。
それで、ぎゅうと、胸の奥を鷲掴みにされた。
今、ダートに噛まれた余韻すら、首元から体の中へとほろほろとこぼれ落ちていた。
ダートは静かな目をしてアーネストのことを見つめており、なぜか、どうしようもない羞恥心のようなものが胸の内に湧き上がってきた。
「うん、あの。――なんか、改めて言われると、照れるんだけど」
「照れてください」
は……、と、ため息のような呼吸がこぼれ落ちた。
それから、じわじわと顔が熱くなる。
「あの、そのだね、ちゃかす気は無いんだけどさ。」
「はい」
「俺の、可愛い部下のフリードくんはどこに行っちゃったのかなって」
ぴくりと眉を上げたダートが、ゆっくりと口を開く。
「こう言う自分は、お嫌いですか」
「わけないじゃん。」
速攻で否定する。ダートもわかっているようではあったが、そう言うことでは無いので。
「……わけないんだけどね」
男心もわかるので、苦笑がこぼれてしまうのをアーネストとしてはとめられはしなかった。
「そんなにさ、一足飛びで大人にならなくて良いんだよ。って、思ってね。
頼られたい男心はわかるけどさ、それ、俺も同じだからね?」
「……知ってます。」
そう言って、小さく笑ったダートを見て、まあ、恋人としては譲ってやろうではないか、時々は。と思うのであった。
「――中、入ろう」
それで、アーネストは翌日、初めての病欠をとることになった。
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