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余韻06 ほこり
「――師団長、このシフト本気ですか?」
「うん?なんか気になるところあった?」
春の魔獣討伐に向けたシフト表を手に、筆耕の得意な事務官としてこの度配置されたデニスが、やや困った顔で佇んでいた。
「フリードさん……、副師団長とご一緒なんですか?」
「ん?うん」
デニスの言葉の意味がわからず、ひとまず聞かれたことに答えると、その横のデスクで大人しく討伐の準備のための申請を書いていたウィズが跳ねた。
「――えっ、師団長。それ、本気ですか……」
「あー、ウィズには先に伝えておくべきだったよな。フリードはまだ貯留量がディッカーとして天井を叩いてるわけじゃない。フォローしてやってほしい。」
「いや、そんなんは全然やりますけど……」
「けどなんだ?」
ウィズとデニスとが困ったように顔を見合わせるのを見て不思議に思っていると、やがて言いづらそうにウィズが口を開いた。
「――フリードは、師団長と組むべきですよ……」
「何で?」
何で?とは聞いたものの、今のダートと組めるのはウィズか自分しかいないとはわかっている。なので、聞きたかったのはなぜ自分なのか、ではなく、なぜウィズではだめなのか。と言うことだ。
しかし、アーネストのそんな簡潔な問いに、ウィズはガックリと頭を垂れて、デニスすら目を丸くして驚いた。
「――師団長……。フリードはまだディッカーになってやっと三ヶ月です。」
その通りだ。だから配慮が必要だ。
「で、ディッカーになっていくらも経たない頃に、彼は目の前で大事なウルラを失いかけました。」
――あ、
「自分は。――フリードはまだシフトに入れないか、――師団長と組むべきだと思います。」
ウィズの言う通りだった。
怖がらせて、我慢させて、それでも自分を信じて待ってくれたダートのことを、
大 丈 夫 だ と、思い込んでいた。
「――確かに……そうだな。――指摘してくれてありがとう。考えが及んでいなかった。」
デニスに向かって手を差し出すと、手元にシフト表が戻ってきた。
「フリードと師団長が残留配置になっても、シフトに出る人数は例年通りです。――俺らに特に無理はありませんから。」
「――うん、わかった。」
アーネストは、待機室の前でしばし佇んでいた。
今日のダートは日勤で、今は待機室にいるはずだ。――もしかしたら訓練場かもしれないが。
ここで、扉を開けてダートの名前を呼ぶことが、師団長としてのものなのか、個人的なことなのか、今少し、判断できなくなっていた。
それと、なぜだか単純に気まずかった。
最近、待機室を覗き込んでは、ダートの在室を問うことが増えていたので。
「――師団長、どうかしましたか?」
ぱっと顔をあげると、スコットが廊下の奥からこちらへ向かってくるところだった。
「――あ、いや」
歯切れの悪いアーネストの返事に、一瞬首を傾げてから、何かに気づいた風のスコットは、さっぱりとした笑顔でアーネストに答えた。
「フリードなら、今備品室です」
「……ああ、うん。――ありがとう」
待機室に入るスコットに場所を譲ってやると、ふとスコットが振り向いて言った。
「あ、お手数ですけれども、今日はもうそのまま上がっていいってお伝えくださいますか?自分ももうあがりますんで。」
「わかった。伝えておくよ。」
――行くとは言っていなかったのだが……、行かざるを得なくなってしまった。
それで、アーネストは備品室へ向かうために歩き出したので、その後ろ姿をスコットが少しの間見送っていたのには気づいていなかった。
「――フリード、いるか?」
備品室の扉を開けると、中はやや薄暗かった。
日暮れどきの外光は薄く、そろそろ視界が悪くなる頃合いだ。
「はい。――すみません今手が離せません」
姿がないのに声がするので、ぎょっとして室内を見回すと、棚の下段に顔を突っ込んだ、大きな体が見えた。
「君何してんの?」
「――ちょっと、」
頭を引っこ抜いて、ダートが体を起こした。
「ちょっと掃除をしていました」
そう言ったダートの後頭部に、ほこりがくっついていた。
「ふは……。」
こちらを振り向こうとしたのを押しとどめて、アーネストはダートの背後にしゃがみ込んだ。
「こりゃ君。今日は体の清めがいがあるね」
つんつんと、髪の毛ごとつまんで、ほこりを取り去ってやる。されるがままになったダートが「どう言うことですか?」と聞いてくるので、ダートの背後から腕を伸ばして、取り除いた埃の塊を見せてやった。
「――あ」
アーネストの手を見下ろして、ようやく状況に気づいたらしいダートに、アーネストは笑いかけた。
「――ダートくん。……今日は恋人のお家に泊まりにおいでよ」
がばっと、音がするほど勢いよく振り向いて、ダートはアーネストの顔を見つめた。
「ダメかな?」
「――師団長、明日お仕事ですよね?」
「――何でそうなるんだよ!」
抱きつぶす前提なのおかしくないか?!
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