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余韻08 とっておき

 さり、さり……。  アーネストの持ち上げた顎に、ダートがほんの少しだけ手を添えて、剃刀の刃を少しずつあてている。  時折指で皮膚を伸ばされ、ダートにあちこちから覗き込まれ、アーネストはもう観念してされるがままになっていた。  目のやり場にもこまるので、目を閉じているのだが、これまた首の角度といいダートの顔の高さといい、  ――キス待ちな訳じゃないんだけど、なんかこう……。  剃刀が肌に当たる緊張感と、今の自分の姿勢。 「緊張してますか。」  ――してるに決まってんだろ。  指の温度、刃の当たるところ、ダートの息づかい、衣擦れの音。  目を閉じた世界では、それらの全てが、()()()の記憶を思い起こさせて、アーネストはなぜか呼吸が整わなくなっていた。 「……ん」  何かが、鼻先をかすめて、思わず声がもれた。 「あの時、――俺はめちゃくちゃ緊張していました。」  さり、さり。 「あなたは目が見えていなくて、だから、ずっと、()()()()()()()()()()()()()」  ――まじ?  思わず目を開けると、目の前のダートは柔らかい顔をしていた。 「だから、あの時は何も不埒なことができませんでした。」  思いがけない言葉に、喉の奥がぎゅうとしまった。  さり、さり……。 「今は、」  ダートの指が、アーネストの顎のラインをなぞる。 「できないんじゃなくて、とっておいてます。」 「――っ」  なぞられたところから、ぞわぞわとしたものが首筋に広がり、アーネストは鼻から息をもらした。  道のところをなでられて、ダートの声がする。 「終わりましたよ。――ありがとうございます」  温かい湯で湿らせた布で、優しく頬を包まれ、口元もぬぐわれて、それから、布を取り払ったところに口付けをされた。  椅子に乗り上げられて、ぐいと上向かされた姿勢でのキスは、喉に力が入らなくて、アーネストは感じるままに声を上げるしかなかった。  あの時からずっと、こうしたかった。そう言われている気がして、アーネストは、ただ、ダートの背中に腕を回して、与えられるものを受け入れることにした。 「――続き、していいですか」  一瞬自分から離れた口がそんなことを言うので、アーネストは追いすがって口を封じてやった。  ここまでしておいて、断るわけもない。  そのまま寝台になだれ込んで、お互いに着ているものをはぎ取って、深いところまで口付けをして、あちこちに触れて熱を高めあい、――それから、アーネストは一回ダートの動きをとめさせた。 「ダート」 「……はい」  アーネストの膝を持ち上げようとしたところで、名前を呼んでその動きをとめさせたアーネストは、その手のうちから自分の脚を奪い返し、体をひねった。 「その……、鼻血吹いてもやめるなよ」 「なに――」  ダートの体の下で、自分の体を反転させ、それから膝を立てる。  鎖骨の下で、共鳴具と家紋のペンダントが小さく音を立てた。  片方の腕と、もう片方の肩とで体を支え、空いた手を後ろに回して、()()()()()()を示してやった。 「ここ。――お前の、入れて。」 「――――っ、」  初めての交渉の時とほとんど同じかっこう、同じ言葉で、ダートにもう一度、入るべき場所を示してやった。  あの時は、そうしなければならなかったし、それが役割でもあった。だから、半ば軽い気持ちで示してやったことを決して否定しない。  今は、  ――ダートが、アーネストの次の日のことを気にしなくても、一つになることができる選択肢の一つとして。 「こっちだと、俺、体がしんどくないの」  言った途端に、ダートの腕がアーネストの腹にまわってきた。  その大きくて熱い体が、アーネストにのしかかるようにかぶさってきて、アーネストの耳元には、ダートの息づかいが聞こえてくる。 「――すみません。……少しでました。」  ――正直なやつ。  くっくっ、と笑い声がアーネストを揺らして、ダートの体をも揺らす。 「えっと、――興奮してくれてありがとう。……嬉しいな。」  そう言う合間にも、ダートの手がアーネストの腰回りを這い、肩から背中にかけてを甘噛みされ……、アーネストは、こんなにセックスに慣れてきた男が、まだこんなことで先走ってしまうことに新鮮な驚きを覚えていた。 「何ですか、それ」  アーネストらしくない言葉だと気づいたのだろうか。 「――二回目のお前に、かけてやろうと思ってたセリフ」    入り口に、ダートの熱があてがわれた。 「おっしゃらなかったのは、なぜですか?」  ――何でだったかな……。  その時のことを思い出そうとした瞬間に、その熱に力が込められて、アーネストの入り口を押し広げた。 「――――っ」  そのまま、浅いところまで進んだダートが、ぐりっとしこりを押しつぶして、腰が反り、腹の筋肉がひきつれて、アーネストは声にならない悲鳴をあげた。  ――思い出した。 「――い、ぁ……、お前の、いたずらのせい……だろ!」  その場所がイイ、とわかったダートが、少し腰をひいては、進め、また少し引いてはしこりを押しつぶし、――アーネストの世界はあっという間にぐらぐらと揺すれはじめた。  押し込まれるたびに、じわじわと痺れが体に広がっていって、腹筋がびくびくと引き攣れる。  その度に呼吸が乱されて、アーネストは自分の制御を手放していった。  ――じゃあ、今、聞けてよかったです。  背後からそんな声が聞こえてきたが、アーネストにはもうほとんど聞こえていなかった。 「――――っっ!!」    これ、ほんとに楽なのかな……。

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