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余韻14 誰
布団の中でうとうとしていると、物音に意識を引き上げられた。
――ダートだ。
おかえり、と言おうとして――、
言葉になったかどうかわからなかった。
ただそのひそやかな気配に、アーネストはまた意識を手放した。
「んぅ……」
背後からまわされた手が服の下に忍び込み、アーネストの体に触れていた。
引いた襟からうなじに唇が触れ、共鳴具のかかる鎖をなぞられる。
そこから、ぞくぞくとした震えが背筋をつたい降りた。
少し皮の硬い指先が、アーネストの胸の先にそっと触れた。
ほんの少しのくすぐったさのような、もどかしいような感覚に、小さく喉が鳴った。
背後から、アーネストの両脚の間に足が割り入って、臀部に硬い熱が触れた。
思わずそこに力が入り、腰が前に逃げる。
同時に、自分の口から熱いため息が漏れた。
「――ダート……」
ぼんやりと覚醒した意識のまま、悪戯な男の名前を呼ぶ。
応えるように、うなじから肩へと唇が這い、もう一方の手がアーネストの下履きの中に侵入してきた。
肩口で熱い唇が開いて、そこに舌が這わされる。
軽く歯も立てられ、アーネストは薄く目を開いた。
寝台に投げ出したままだった腕の輪郭が、暖炉の火を背にうっすらと見えた。
薪に火が立っている。
明日アーネストは休みではないけれど、どうやら、ダートにはまだ眠るつもりはないらしい。
「ダート、おかえり」
アーネストの声に応えることなく、肩口から首筋まで湿った舌が這う。
弱いところをこじ開けられて、アーネストの息が跳ねた。
「……ん」
珍しく後ろから触られていると、姿が見えないのが少し心許ない。
胸元に腕を引き寄せても捕まる先がなくて、アーネストは握った手を額に寄せた。
下履きの中で硬くなり始めたそれを、大きな手のひらが包む。
親指で先の方をなぞられて、腹の底から息が押し上げられた。
「だ……、ダート。――ダート」
いつもより忙しなく昂りを握り込まれ、アーネストは少し後ろを振り返った。
肩口にうずめられた顔を見ることはできなくて、代わりに、大きな手のひらがアーネストの昂りを上下にこすりあげる。
臀部に押し付けられた熱に、ぞわりとした。
いつもと、違う。
「ダート。……ね、っ――やだ」
息を呑んで、腹の震えをおさえる。
前からは大きな手が、後ろからは硬い熱が迫っていて、どこにも逃げ場がなかった。
体の下にある肩を押し下げ、上半身を前にずらす。
胸の先端をなでていた指が、そこをキツくつまんでアーネストの逃げを咎めた。
「いっ……ぁ」
痛かった。
――誰。
「ぁ、……え、ダート?」
顔を見たくて、肩で背後の体を押す。
動かなくて、肘でも押そうとすると、筋肉のしっかりと乗った二の腕に挟まれて、アーネストは身動きが取れなくなった。
「や、やだ。やめろ」
肩に歯が立てられる。
これは、噛みつき虫だ。
俺の恋人の――
「――っい、――や……!」
ダートのはずだ。
額に押し付けていた手を胸元にやりかけて、とめた。
「た、たすけ、」
うまく声が出ない。
「助けて、ダート」
つまみ上げられた胸の先から痛みが抜け、肩に立てられた歯から力が抜ける。
アーネストの昂りを解放した手のひらが、小さく震えたのがわかった。
肘を捉えられたまま、その腕に手を絡ませて、掴む。
「ダート……、っ、俺のこと呼んで」
うまく息ができなくて、身体中に力が入ったままなことに気づく。
背後の男が、アーネストの肩口から頭を上げた。
「……師団長……」
その声に、つめていた息を吐き出す。
思っていたよりも、ずっと体が震えていた。
「ダート……」
名を呼びながら、体ごと振り返る。
ダートは、アーネストから手を離して、体を起こそうとしていた。
目が合うと、ダートは呆然とアーネストの顔を見つめ、それからアーネストの体の下に差し込んでいた腕を抜こうとした。
背中を押しつけてそれを押し留め、両腕をひらく。
「ダート、きて」
「師団長」
少し首を傾げて促すと、ダートはゆっくりとアーネストの腕の中に体を寄せた。
アーネストも、腰を回してダートの体重を受け止める。
「……室長って、呼んでくれないの」
体の熱に、重みに、身体中の強張りが取れていく。
パチパチと薪のはぜる音が聞こえた。
ダートが少し体を起こして、アーネストの顔を覗き込む。
親指で眦を拭われて、そこが湿っていたことにようやくと気がついた。
「室長、――俺は、おそばにいてもいいですか」
よくみれば、ダートの目も揺れていた。
何か、あったのに違いない。
「なに、俺、かわいい恋人から距離取られようとしてるの?
……やだよ」
ダートの背中に腕をまわす。
引き寄せることはしないで、顔をみつめた。
ダートの眉がぐっと寄って、それから、唇が震えた。
「…………ご結婚、なさると」
ダートの目の端に、暖炉の火が映って、チラチラと揺れていた。
「……誰が?」
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