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余韻15 引き止める

 二人、しばらく見つめ合ったまま沈黙が流れた。  ダートの頬の輪郭が、柔らかく橙色に光る。 「――待て」  ふとダートの重みが緩み、アーネストは咄嗟に背に回した腕に力を込めた。 「すみません、自分の、勘違いです」 「ダート」 「お、怯えさせました。すみません、戻ります」 「待てって、なあ」  アーネストがぶら下がっても、ダートは難なく体を起こしてしまう。  両腕を取られて、背中から腕を解かされて、アーネストは思わずダートの背に爪を立てた。 「――っ」 「ぁ……、ごめん」  思わず腕から力が抜けて、手を開く。  ダートはアーネストの方を見なかった。 「いえ、悪いのは自分です」 「待ってダート」  寝台からさっと立ち上がったダートに、アーネストは手を伸ばした。  膝立ちになって、ダートの肩を掴む。  分厚い肩は、びくりと震えて硬くなった。 「やだよ。……一人にすんなよ」  肩に手を乗せたまま、ダートから目を離さないように、寝台から片足を下ろす。  下ろした足の裏に、人肌のような奇妙な感触が触れた。 「ひぁ……!」 「室長!」  下ろした足を踏ん張れなくて、寝台から転び落ちそうになったアーネストの体を、ダートが抱き止めた。  振り向いたダートと真っ直ぐに目があって、アーネストは息を止めた。  胸の内で鼓動が大きく跳ねている。  室長って言った。    ダートにしがみついた格好のまま、そっと下を覗き込む。  思わず浮かせた足の下、ダートの手袋が片方落ちていた。 「手袋……」 「俺のです、すみません……」  緩みそうになるダートの腕に、アーネストは思いきり体重をかけた。  反射のようにダートの腕に力が入ったのを確認して、顔を寄せる。 「許さない。罰として――ちゃんと俺のこと慰めて」 「……室長」  小さく呼ばれて、少し唇を合わせる。 「怖がらせた恋人のこと、優しく抱いて」  間近で目を合わせて、鼻先を擦り合わせる。 「あと、手袋拾っといて」 「……はい」 「うん」  そのまま、ダートに寄りかかっていると、ダートが困ったようにあごを引いた。 「室長」 「うん?」  少し首を伸ばして、唇に触れてやる。 「……あの、手袋、拾えません」 「うん」  もう一度触れる。  触れたまま、小さく顔を振って唇をくすぐった。 「……俺が先」  支えるダートの腕が、アーネストを抱えなおした。 「あの、……室長」 「だめ」  目を合わせて、また鼻先をつける。 「好きか、かわいいか、愛してるか、……それ以外は、言うなよ」  少しだけ、ダートの眉が寄って――  それから、唇が塞がれた。  そのままゆっくり倒されて、寝台に背をつけて、ダートを抱きしめる。  誰と、――誰が結婚するのでも。 「ダート、……俺、お前だけだよ」  口付けの合間に言うと、ダートの腕にしっかりと包まれた。 「……そう言うこと言うの、かわいくて、たまんないです」  やっと帰ってきたかわいい恋人の言葉に、胸の中が暖かくなった。 「……俺は、そういうこと言うお前が、好きだよ」  しばらくの間、二人無言で会話を続けた。 「……ん」  先に進んでくれないな。と思う。  ……先ほどのことを、気にしているのかもしれない。  手のひらをダートの胸板に這わせても、  腰を伝って、硬くしまった大臀筋をなでても。  浅くなった呼吸がアーネストの意識を連れ去りそうでも。 「……ダート」 「はい」  首すじの弱いところでダートが返事をするので、アーネストはたまらなくなって熱い息をはいた。 「何があった……?」  膝を曲げて、ダートの足をなぞりあげる。  少し浮いたダートの腰を引き寄せて、二人の熱を重ね合わせた。 「――っ、室長」 「俺が、誰かと結婚するの?お前以外と?」  ダートの腰をなでる。  がっしりとした腰骨と、分厚い筋肉。  アーネストを包み込む大きな体。  アーネストに安心をくれる、ダートのあたたかさ。 「やだよ」  また、しっかりと引き寄せる。 「俺のことどっかにやんないで」  ダートの胸が、大きく上下するのがわかった。 「ちゃんと俺に聞いて」 「……はい。すみませんでした」  肩口にあるダートの頭に顔を寄せると、ダートが少し顔を上げた。  首を傾けて覗き込んでやる。 「何があった?」  少し、情けない色をしたぐりぐりお目目が、アーネストを見返した。 「今日の」  最近のダートは、以前よりもすこし男前になってきた。  頬の柔らかさがとれ、目元が少し精悍になってきた気がする。  そんな「格好良い」騎士になりつつあるダートの、困った顔はやっぱりかわいかった。 「警備の際に……。師団長のご婚約を寿ぐお言葉を、大臣殿から」 「俺の?」 「……はい」  少し考える。  そのような話は、ない。  少なくとも自分は把握していない。  それでも。  大臣殿が、わざわざ師団員に声をおかけになった。 「……ごめん」  ふと浮いたダートの腰を引き止める。 「俺、なんのことか本当にわからない。ごめん」 「……室長」  ダートがこれほどまでに不安を感じるほど、大臣の言葉は具体的だったということだ。  その話を、まったく把握していなかった自分に、呆れかえる。  鼻先をダートの鼻に寄せる。  そのまま少し待つと、ダートが遠慮がちに鼻先を触れさせた。 「家に、確認する。――だけど俺、お前以外とは一緒にはなれない」  アーネストの言葉に、ダートが固まった。  少ししてから、ダートが喉の奥から搾り出すように声を出した。   「……道が、お口元で、」 「違う」  目の前のダートと目が合わなくて、触れ合ったままの鼻先で合図する。  小さく名前を呼ぶと、ダートがようやくこちらを向いた。 「ダート、俺のことみくびるなよ」  アーネストの言葉に、ダートの目が揺れる。   「一緒にいる相手くらい、自分の意思で決める。  ……道が口元だろうが、身体中だろうが」  少し、唇を触れさせて、離す。   「もし、……お前が俺の番いじゃなかろうが」  離れた唇を追いかけて、ダートに口を塞がれる。  口を開くと、熱い舌が誘い込まれてきた。  間近にあるダートの目はうるみ、暖炉の火を映して、ところどころ青く揺れていた。  今度こそ、腰の昂りを触れ合わせた。  お互いの熱をやり取りするために。  

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