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余韻16 提案

 その後のダートは、やたらと丁寧だった。  いつも丁寧ではあるけれど、昨晩はまるで壊れ物にでも触るように後ろを拓かれた。  指だけでイカされそうになった時には、早く入れと半泣きで懇願したほどだ。  泣いたら、すぐに入ってくれたけど。 「フリードくんさあ」  袖のボタンを留めながら言うと、ダートがその手を取って、ボタンを掛けてくれた。  もう片方の手も取られて、大人しく従う。 「はい」  太い指先で、器用に小さなボタンを留められた。 「昨日、俺が誰かと結婚しちゃうかもって、あんな風に不安がってくれたの?」  ボタンを留め終わったダートの手を取って、握り込む。  この手、この体温。 「……すみません」  力なくアーネストに掴まれたままのダートの手を、軽く振る。 「謝ってほしいんじゃないよ」  一歩前に出て距離を縮めると、顔を傾けてその目を覗きこんだ。  かわいい恋人のしおしおとした顔を見ると、ふと頬が緩んでしまう。 「不安がってもらえて、ちょっと嬉しかった」 「……室長」  大きな男が肩を落としているのがかわいいだなんて、たぶん本当はどうかしている。  でも、ダートはいつだってアーネストに一生懸命で、そうしてもらえるのがアーネストにはたまらなく嬉しいのだ。  とはいえ―― 「でも、不安にさせてごめんな」  ただ嬉しがっていていいものでないことくらいは、アーネストにもわかる。  アーネストは継承権を放棄したとはいえ、子爵家の長子。  騎士爵を持ち、師団長の肩書きがあるなら、縁談の話はついて回る。  考えてもいなかった。  そっと顔を寄せると、ダートが応えてくれた。  朝なので、少し唇を合わせるだけ。  でも、ちゃんと応えてくれた。  唇を離して、体を起こす。  ダートの手を解放すると、上着を手にしたダートに後ろを向かされた。  袖を通すと、肩まで通されて上着のシワを整えられた。  そのまま剣帯をつけられ、マントまで用意されて、アーネストは苦笑した。 「なんか、君。――俺の奥さんみたいだね」 「室長の装備はすべて自分がお整えすると、以前もお伝えしました」  振り返ってみると、まじめくさった顔でマントを掲げるダートがいた。  ふは、と息がこぼれる。  何だかもう、たまらなかった。 「もうさ、結婚しようか。フリードくん」  ――この子のところで生きていたい。  そう思ったら、一緒になるしかないな、と素直に思えた。 「…………は、ぃ」 「あっはぁ、かわいい」  元の通りに向き直って、マントをつけやすいように首を前に倒した。  しかし、なかなかマントをかけてくれる様子がない。 「ダート?」 「……はい」  背後からのかすれ声に思わず首を巡らせると、先ほどと同じ姿勢のダートが、目を見開いて固まっていた。 「どしたん?」  体ごと向き直って、目線を合わせなおす。 「室長、今の……、冗談、ですか」  今の。  ――ああ。 「えー?そんなの――」  本気に決まってる。そう続けようとしたのを、ダートの言葉がさえぎった。 「します。撤回できません。もう受け取りました」  ――なにこれかわいい。  マントを掲げたまま、ひたとアーネストの顔を見すえるダートの目線に、何かがふつふつと腹の底から湧き上がった。  思わず、息が止まる。  足を一歩踏み出しかけて、とどまった。  唇を舐めて、唾を飲み込む。  へら、と笑ってみせた。 「うん。ちゃんと受け取ってね」  それからもう一度体の向きを直して、「つけてほしいな」と声をかけた。  肩に触れるダートの手に、ぞくぞくを止められなかった。

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