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余韻19 誓う
少しの間、アーネストの目を見つめていたダートは、そのまま何も言わずに目を伏せた。
それから、アーネストの鼻先に自分から擦れ合わせて、また、目線を合わせてから、ゆっくりと唇を合わせた。
「……もらって、くださいますか」
唇を離してからダートが言った言葉に、
思わず、喉が鳴った。
口元のほころぶのがとめられなくて、アーネストは、しばらく何も言えなかった。
もっと、
照れたり、驚いたりするかと思っていた。
だけど――
「うん。僕にください」
こんなにかわいい反応は、想像もしていなかった。
アーネストも、少し伸び上がって口付けを返す。
それから、誓いの言葉を告げた。
「大切にします」
耳元、ダートの喉の音が聞こえてきた。
「……俺もです」
それで、しばらく二人、寄り添っていた。
なんだかいつもよりほわっとした顔つきのダートに、何かあれば規定通り連絡しろよ。と声をかけて、家から送り出した。
結局あの後ダートは眠ることなく、二人で簡単な食事をして、詳しい話は明日にすることにした。
今後も続くこんな日のために、居間には寝椅子を置くことにして、
ダートがヘイデンから譲り受けたというものを運び込むことにした。
縁談が弟のものだということだけは、先に告げておいた。
「師団長、なんか昨日変な噂を聞きましたよ」
翌日、執務室を訪れたヘイデンが執務机の前まで来て、珍しく報告の姿勢で口を開いた。
「――なんか、珍しくちゃんとしてるね」
書類から顔を上げて言うと、ヘイデンは少し変な顔をした。
「いつもちゃんとしてませんっけ」
してないから言ってるんだけど。
そうは思ったけれど、話の続きを聞くことにした。
「――うーん。あとで振り返ってごらん。で、どんな?」
剣帯に親指をかけたヘイデンは、一度部屋の中を見回してからアーネストに言った。
「ご結婚なさるんですか?」
ヘイデンの物言いはまあいつも率直だけど。
さすがに、他に誰もいないことを確認するだけの分別はあったらしい。
おかしなところで感心しながら、アーネストは少し笑った。
「うーん、……うん?」
そうとも言えるし、そうではないとも言える。
アーネストが面白くなって首を傾げて見せると、ヘイデンは口をぱかっとあけて、アーネストの顔を見返した。
「だ、……ダメですよ師団長……!そんなのあり得ませんって!」
目を見開いたまま、何とか言葉を繋いだヘイデンは、言い終わると一歩、二歩後ずさった。
書類から手を離して、背もたれに体重を預ける。
さすがにその様子を見せられて、少しやりすぎたと苦笑いした。
「ヘイデン、大丈夫だよ。それ多分弟の話だから」
「お――、弟……さん」
頷いてみせる。
ただ、もはや騎士団の中では、ブリュージュ家次期当主の縁談、ではなく、アーネスト、あるいは炉環師団長の縁談として語られているのだろう。
「うちの次期当主、俺の弟になったんだよね。あんまり知られてないから、誤解されるのかもしれないなあ」
後ずさった姿勢のままだったヘイデンが、少し前のめりになって口を開いた。
「師団長。フリード、……フリードはそのこと知ってますか」
ヘイデンの真剣な面持ちに、今度こそ心から笑みが浮かんだ。
ダートのことを、こうして心配してくれる仲間がいる。
ヘイデンの真剣さが嬉しくて、しっかりと頷いてみせた。
「大丈夫だよ。ちゃんと話をしてある。
――フリードのことを、心配してくれてありがとう」
ヘイデンの親指が剣帯から外れ、ヘイデンの長身が執務机の向こうに消えていった。
机の向こうから覗くへろっとした髪の毛が、力なく呟いた。
「び――――っくりしましたよ、師団長ならやりかねないですし」
「……どういうことだよ」
へろへろの髪の毛から、ゆっくりと顔が覗く。
「師団長のニブさは、俺らの心労の種なんです……」
しばらく、沈黙が続いた。
川原に座っていたダート、その伏せた目を思い出す。
アーネストは、背もたれにもたれたまま、口を開いた。
「――なんか、それは……、悪かったな……。」
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