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余韻22 帰る場所
体を清めて、きちんと準備もして――
このところ、その「準備」に興味津々の恋人は、しきりとアーネストに手伝いを申し出るのだが、今日も断ってしまった。
けれど、問答無用で手伝われることがあれば、それもまたアリではある。
本当は、……ダートにされて嫌なことなんて、何もないので。
「養い親殿とは、どんなご関係なの?」
汗を流してさっぱりしたダートの頭に指を突っ込んで、風魔法で風を送ってやる。
こうしておいてやると、朝になっても寝癖がつかないので、その分支度の手間が減らせる。
ダートは寝癖にあまり頓着しないけれど、ダートの気の抜けたところを、アーネストはあまり人に見せたくなかった。
「母の弟です。独身ですので、養子縁組しているわけではありませんが」
「――ああ。じゃあ、君はお父上の家の人、ということになっているんだね」
ダートは軽く頷いて、また口を開いた。
アーネストの指先が、ダートの髪の毛を追いかける。
「代々騎士の家系でして、それほど親類はおりません。フリードとしては俺一人で、あとははとこが一人」
「そうなのかい?」
ダートのこめかみから指を差し込み、地肌をなぞってやると、ダートが目を細めた。
その様子がかわいくて、おでこにキスを落としてやる。
ソファに座ったダートの前、アーネストは膝を乗り上げてダートを閉じ込めていた。
別に、先ほどの意趣返しではない。
「養い親も独り身ですし、俺の結婚や、例えばその子供などにはそれほど興味はないと思います」
「――そうかなぁ?」
アーネストだって、よく知らないけれど――
独り身で、子供を引き取って育てるのは、並大抵の覚悟ではない。
ましてや愛情がなければ、ダートがここまでまっすぐに、眩しいばかりの青年になることなんてなかったはずだ。
きちんとご挨拶をして、ダートの手を取ることを許していただくべきだと思った。
うなじから指を這わせて、頭頂部までなぞりあげると、ダートは軽く目を閉じて、また開いた。
目があって、ダートは少し口に力を入れてから、アーネストの耳元あたりに目線をやった。
ダートの腕が持ち上がり、アーネストの腰へと回される。
「ただ、もしお会いいただけるのなら、……その、とても嬉しいですが……」
視線を少し逸らしたまま、ダートが言った。
耳のあたりがうっすら赤い。
「……いいの?」
思わず聞き返してしまってから、
あ、やばい、と思った時にはもう遅かった。
「はい。……その、会っていただけたら、きっと」
言いながら、少しだけこちらを見た。
その目が、期待を隠しきれていない。
「――そっか」
次の瞬間には、もう腕が伸びていた。
ダートの頭を抱き込むと、それに合わせてアーネストの腰も引き寄せられる。
ダートの頭が少し動いて、胸元の共鳴具が鼻先でつつかれた。
「……ん?」
ダートの胸元にも、同じ共鳴具がかけられている。
二人の、繋がりの証だ。
ダートが顔を上げる。
その頬が柔らかく緩んでいた。
「俺は、……何をすればよいですか」
その言葉に、ほんの少し腰を落として、唇を寄せる。
ダートが口を開いて受け入れて、しばらくそこで会話をした。
「……っは」
キスと一緒に、お互いの体をなぞりあってしまって、息が上がってきた。
顔を少し離してから、完全にダートの太ももの上に座り込む。
追いかけてきた恋人の唇をついばんで、額を合わせた。
「俺の家族にも、会ってくれる?」
「……はい。もちろんです」
少しだけ、固い声でダートが言う。
アーネストは目を細めて口を開いた。
「父上には、恋人が男なことも、その恋人と添い遂げたいことも伝えてあるよ。その上で――」
鼻先を触れ合わせる。
安心して欲しかった。
「君と一緒になるための、やり方を教えてもらった」
「……やり方」
「うん」
額を離して、ダートの頬に手をやる。
少しだけ考えて、それからアーネストは口を開いた。
「ダート、俺をお婿さんにしてほしいな。フリードの家の」
「…………は、い?」
思った通りの反応に、アーネストは小さく声を立てて笑った。
「ええとね……」
それから、ダートに少しずつ説明する。
まずは、準結婚という婚姻制度について。
貴族家の当主のみに許された特権で、家を整えるための救済措置であること。
同性でも差し支えないこと。
――重婚は許されないため、お互いが唯一無二となること。
それから、アーネストの小子爵という個人爵位に加えて、妃殿下から名誉爵位の打診を頂いていること。
これにより、アーネストは家の当主となることができること。
そこで、ダートが一度ゆっくりと瞬きをした。
アーネストも、ゆっくりと頷いてみせる。
「それで。……フリードの家を、俺に継がせてほしいな。ダート」
ダートの手のひらが、アーネストの腕をなぞって、二の腕を掴む。
引き寄せられて、アーネストは抵抗することなくダートに体を寄せた。
「名実共に、僕の帰る場所になって」
背中に腕を回されて、ぎゅうと抱きしめられて――
子供のようにただ、しがみつくように抱きしめられて、アーネストはそれを受け止めた。
「……はい。……ぜひ」
少し震えるダートの声に、アーネストは頭を預けた。
ダートにとっても、
自分がそうだといいと思いながら。
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