7 / 7
第7話 カクテル
美味いメキシコ料理に満足して、バーカウンターに移動した。まばらに空いた席に男たちが座る。カウンターの中にはカッコいいバーテンダーがいる。
剛はじっと見つめている。
「何を召し上がりますか?」
「えっ?」
(剛は明らかにこんな場面は慣れてないだろ。)
航がせっせと世話を焼く。
「なんかカクテル、おすすめはありますか?
こいつには弱いやつ。」
バーテンダーが笑って
「パリジャンなんかいかがですか?
マティーニにカシスで飲みやすいですよ。」
シェーカーに材料を注ぐ。その仕草がスマートでカッコいい。
剛の前にカクテルグラスが置かれた。シェーカーから注がれたのはきれいなカシス色のカクテル。
「じゃあ、俺はマティーニで。そんなにドライにしないで。」
ステアで作ってカクテルグラスに注ぐ。ピンに刺したオリーブを沈めてレモンピールを絞りかける。
「声だけで乾杯。」
グラスはぶつけない。
バーテンダーがニコニコして見ている。
「何でカシスがパリジャンなんだろう。」
「賑やかな通りを眺めながらパリのカフェで飲むカクテルでしょうか。」
「うーん、パリの香りがする。」
「ふーん、どんな香り?」
「何となくいい香り。」
「初夏のバンコクの街角は、むせ返るような花の香りが強烈だったよ。
俺は町の香りっていうと、バンコクを思い出す。」
剛は父親の仕事で幼少期をバンコクで育ったらしい。
「俺は和菓子屋だから、ずっと日本だ。
サーフィンやるのにハワイに行くだけ。」
剛の父親は日本の有名な菓子メーカーのタイ支社に勤務していたらしい。
「高校で帰ってきた。バンコクは日本語通じるから、言葉あまり覚えなかった。日本人学校だったし。」
航が小さい声で
「タイは、BLが進んでるんだろ?
剛はボーイフレンドとか出来なかったか?」
剛は赤くなって涙目で睨んできた。
その顔があまりにも可愛かったので焦った。
「な、なんだよ。イミフ。」
航は困ってしまった。
航の言葉に反応する。バンコクで中学生だった剛の初体験の相手は、男だった。
ともだちにシェアしよう!

