37 / 48

第37話 黒服

 一方、榊は、実のところ、キレイの事はあまり思い出せない。ただ、水着姿のキレイの身体は素晴らしく、本当に綺麗だった。  名は体を表す?綺麗な娘だ。印象はそれだけ。 それよりミレイが酔っ払って泊まったあの夜の事が忘れられない。何もなかったのに。  彼女の素直な言葉使い。育ちの良さを感じさせる。姉の奔放さ、とは対照的だ。 (なんか、大切にしたいな、と思えるんだ。)  今夜もあのクラブにだらだらと人が集まって来る。 「剛が働くって言うから、 今日からここの黒服、な。」 「前にもキャバの黒服やってたんだろ。 ここはホステスとかいないから気が楽だろ。」  剛は自立しようと考えていた。あの夜以来、 有人からは何の連絡もない。剛は一緒に暮らせる事に希望をつないでいたのに。 (なんで、何も言って来ないんだよ。)  こちらから声をかけるのは悔しい。物欲しそうだ、と思われたくない。  妹の事もある。有人と暮らしたら大仁が黙ってないだろう。妹を泣かせたくない。  大仁がゲイでなく、妹を愛してくれたらいいのに。そんな都合のいい事は起きないだろう。 「いらっしゃいませ。」  黒服と言ってもキャバクラのような大変さはない。店のボーイもいるので黒服は全体を見てるだけでいい。雑用はやらない。  蓮司と剛は以前一緒に働いた事があるから、 阿吽の呼吸だ。前の店も蓮司の親の経営だった。 「剛ちゃん、板についてるね。」  常連の女子たちが声をかける。 気のいいバーテンダーが会話を振ってくれる。  遅い時間にはDJタイジの音楽タイムだ。 ラップ?この店の売り、だ。  今夜も寂しい奴らが虚勢を張って集まって来る。アンニュイなポーズで人生に疲れたフリをして。それを癒してくれる相手を探して。 「剛、カウンターでバーテンダーが呼んでる。」 「何か?」  カクテルグラスが目の前に置かれた。 「こちら、ビトイーン・ザ・シーツ、でございます。僕からあなたに。」 「有人! バーテンダーが入れ替わってる!」 「待たせたね。このカクテルが僕の気持ちだよ。 迎えに来たよ。」 「ビトイーン・ザ・シーツ⁈  ベッドにおいでよ、って訳す?」  カクテルを三口で飲み干して有人に抱きついた。 「準備が出来たよ。剛を迎える。」

ともだちにシェアしよう!