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第37話 黒服
一方、榊は、実のところ、キレイの事はあまり思い出せない。ただ、水着姿のキレイの身体は素晴らしく、本当に綺麗だった。
名は体を表す?綺麗な娘だ。印象はそれだけ。
それよりミレイが酔っ払って泊まったあの夜の事が忘れられない。何もなかったのに。
彼女の素直な言葉使い。育ちの良さを感じさせる。姉の奔放さ、とは対照的だ。
(なんか、大切にしたいな、と思えるんだ。)
今夜もあのクラブにだらだらと人が集まって来る。
「剛が働くって言うから、
今日からここの黒服、な。」
「前にもキャバの黒服やってたんだろ。
ここはホステスとかいないから気が楽だろ。」
剛は自立しようと考えていた。あの夜以来、
有人からは何の連絡もない。剛は一緒に暮らせる事に希望をつないでいたのに。
(なんで、何も言って来ないんだよ。)
こちらから声をかけるのは悔しい。物欲しそうだ、と思われたくない。
妹の事もある。有人と暮らしたら大仁が黙ってないだろう。妹を泣かせたくない。
大仁がゲイでなく、妹を愛してくれたらいいのに。そんな都合のいい事は起きないだろう。
「いらっしゃいませ。」
黒服と言ってもキャバクラのような大変さはない。店のボーイもいるので黒服は全体を見てるだけでいい。雑用はやらない。
蓮司と剛は以前一緒に働いた事があるから、
阿吽の呼吸だ。前の店も蓮司の親の経営だった。
「剛ちゃん、板についてるね。」
常連の女子たちが声をかける。
気のいいバーテンダーが会話を振ってくれる。
遅い時間にはDJタイジの音楽タイムだ。
ラップ?この店の売り、だ。
今夜も寂しい奴らが虚勢を張って集まって来る。アンニュイなポーズで人生に疲れたフリをして。それを癒してくれる相手を探して。
「剛、カウンターでバーテンダーが呼んでる。」
「何か?」
カクテルグラスが目の前に置かれた。
「こちら、ビトイーン・ザ・シーツ、でございます。僕からあなたに。」
「有人! バーテンダーが入れ替わってる!」
「待たせたね。このカクテルが僕の気持ちだよ。
迎えに来たよ。」
「ビトイーン・ザ・シーツ⁈
ベッドにおいでよ、って訳す?」
カクテルを三口で飲み干して有人に抱きついた。
「準備が出来たよ。剛を迎える。」
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