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第56話 帰って来た

 日本に帰って来た。 剛は有人の誘いで、あのペントハウスに住んでいる。大仁は、このインターナショナルホテル・ヨコハマのスイートを一つ占領している。  最上階、ペントハウスのある屋上の一つ下だ。  ペントハウス直通のエレベーターがこの階には止まる。表向きスイート専用エレベーターだからだ。 「ここにいると、大仁と有人の日常生活が見えてくる。プライバシーが無いわけじゃないが、結構大仁はオープンな性格らしい。」  逆に有人は極端な秘密主義のようだ。出自の違いだろうか?それでもスタッフには剛を紹介してくれた。身の回りのことを全部やってくれる。  付かず離れずのホテルライクな暮らし。 仕事はしている。あのクラブの黒服。別に辞めろとは言われていない。  有人はホテルのオーセンティックバーにいる事が多い。 「今日も太客が滞在中だろ。 忙しいな、お坊ちゃんは。」  有人はいつも大仁に皮肉を言う。チクッと刺すような言葉を突き付ける。 「ああ、挨拶ばっかりだよ。疲れる。」  タキシードでスイートを出て行った。剛は惚れ惚れと見送った。 (かっこいいな。大仁はああいうの、似合うな。 上流階級相手の仕事が身についている。)  有人が蝶ネクタイにベストのバーテンダースタイルで出て来た。本当はジャケット着用だ。 「バーは夜じゃないの?営業時間。」 「いや、昼前から、開けるよ。 アペリティフの注文も多いから。」  バーにはバーテンダーが複数いるが、リーダーのような有人の位置だった。  この兄弟はいつ見てもカッコいい。 「横浜もいいけど、、ハワイは良かったな。 空気が違う。」  大仁がペントハウスに戻って来た。思った通り、カッコいいタキシード姿だ。 「パパが、いや、父が、僕たちに話があるそうだ。ダイニングのオーキッドルームに来いって。」  わざわざ大仁に伝言を持って来させるのは、 なぜだ? 「父親のお気に入りの大仁を寄越したのは,何か言いにくい話かな?」  暗い顔をして有人が言った。 「僕から取り上げるものなんて何もないのにな。」 「有人の宝物はまだ残ってるよ。」  剛の手を引っ張って大仁は言った。 「大ちゃんはいつも僕のモノを欲しがる。」  剛は、この兄弟の二人のうち、どちらが酷い奴か、わからなくなってきた。  やっと有人と二人の愛の暮らしを手に入れた、と思ったのは勘違いだったのか?

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