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第57話 全てを手に
何もかもが手に入る暮らし。
父、青木正嗣は跡取り息子、大仁に全て与えたい。
昔から有人は、大仁が欲しくなるようなものを見つけるのがうまかった。父は言った。
「大仁、有人の持っているものを羨ましがる必要はない。全て大仁のために用意されているのだ。世界は大仁のためにある。」
このホテルのオーナー、と言うより日本のホテル王、青木正嗣は、息子大仁に異常な執着を見せた。
生まれたばかりの息子を授乳のために独り占めしているような妻に嫉妬して追い出した。最愛の息子を産んでくれた女に嫉妬したのだ。
そして後妻が生んだ二番目の息子、有人は、すべて大仁のために生かされた。後妻は夫の性格に恐れをなして出て行った。息子を連れて行く事は許されなかった。
屈折した父親の元、二人は美しく育った。
父は有人に事あるごとに言った。
「おまえは影だ。大仁が日のあたるところにいるために、おまえは陰になれ。
決して大仁をおまえの影で遮ってはならない。」
青木正嗣は、もうビジネスに飽き飽きしていた。半世紀、気持ちを張り詰めて戦って来た。
親の残したホテルを一流に保つため、世界を相手に商売して来た。いつの頃からだろう、疲労が抜けない。
パーティ、パーティ、政財界の重鎮が集まるパーティが陳腐に思えるのだ。
「人間の限界が見える。
大物と言われる人々がこの程度なのだ。
くだらない。」
「パパ、何だか元気ないね。」
「その年でパパなどと呼ばないでくれ。
恥ずかしい奴だな。
おまえは私の事業を引き継ぐなんて無理だな。」
今まで父の後を継ぐ、とある意味帝王学を叩き込まれた。他に選択の余地は無かったから、手のひら返しのような言葉に大仁は信じられない、と言う顔をした。そばで聞いていた有人は笑った。
「大仁、もうあなたの君臨した王国は崩壊しているようだね。」
嬉しそうに笑う有人の顔が凄絶だ。
「この国はどうなるんだろう?」
「そんな大した事じゃ無いだろ。
青木正嗣は認知症なのか?
公証人に書類を作ってもらおう。
大仁だけが嫡出子ではないだろ?
僕も認知されてる。」
水面下でお家騒動に巻き込まれた。
ハワイから帰って来て、頭がお花畑の大仁が
わがままの限りを尽くして暮らしていたホテルの
王国が崩れ始めていた。
剛は混乱した。目の前で起こっている事はなんだろう? 有人はずっと我慢して来たらしい。
それがスマートな立ち居振る舞いに見えてクールだった。剛が惹かれたのは、何だったのか?
いつも良き理解者のフリをして、
大仁を支配していたのは有人だったのか?
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