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第70話 勝利

 大仁がドールをあのスイートに連れてきた。 「キミは綺麗だ。何者?」  大仁はすぐに人を好きになる。どこで見かけたのだろう。また,すぐにフラれるのに。  自分のものにしないと気が済まない。いつもの事だ。 「あなた、粋じゃないよ。そんなこと聞かないで。」    勝利からサッサと大仁に乗り換えたドール。 あのクラブでの事だった。 「やあ、この美人を僕のスイートルームにご招待したいんだ。いいかな?」  堂々とドールを攫った。 「じゃあね、勝利。ボクの仕事、わかってね。」  取り残された勝利は呆然と立ちすくむ。仲間たちは呆気に取られて見ていた。  キレイが 「勝利、こっちで一緒に飲もう。」  カウンターに誘った。キレイはこんな時にはイイ女ぶりを発揮する。みんなキレイを見直した。 「なんだよ、あいつ。ナマズ野郎。 自分に手に入らないものは無い,って感じだった。なんかムカつく!」 「っていうか、そんなに簡単な関係だったのか、勝利?」  みんな気まずくならないように言葉を選んで慰めてくれる。勝利が 「俺の一目惚れだったんだよ。 パトロンの教授に捨てられて寂しそうだった。」  榊が勝利の肩を抱いて 「おまえは優しいからな。」  ゲイはマッチングが難しい。勝利の美学もある。受け、のネコ、は引くて数多だ。だから、彼らの執着は強い。勝利はサッパリしたいい男だ。 「きっとそのうち素晴らしい人と出会えるよ。」 「ああ、それは俺たちみんなに言えることだ。」  DJタイジが、何か歌え、とブースから手を振っている。 「勝利、何か歌え、って。」  DJブースの横にピアノが置いてある。 「勝利の歌が聞きたいな。ピアノも。」  ラップばかりじゃない、たまにしっとりと歌いにくる客もいる。  勝利の気持ちのいいピアノが始まった。しばらくピアノ演奏が続く。  小さい頃からピアノを弾いていた。音大でピアノを専攻していた。ピアノに向かう勝利の目はプロだった。誰もが惚れてしまう真剣なまなざし。  ドールは、勝利のピアノを知らない。

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