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第71話 モラトリアム
いつ聞いても勝利のピアノはみんな聴き惚れる。蓮司が
「この店の専属にならないか?」
と誘う。
「クラブってのもこの頃あまり気乗りがしない。
俺、飽きてるんだ。ピアノバーにしちゃおうか、と。」
「俺、クラシックだよ。」
「ジャズも好きだったよな。」
「まあ、オリジナルも少しはあるよ。」
そう言って軽く弾いて見せた。
「すごい。勝利のバンドはたしか、メジャーデビュー直前だったよな。なんで辞めたの?」
「よくある音楽の方向性の不一致かな。」
「なんか離婚理由みたいだな。」
「ふん、そうだね。」
バンドのメンバーの中には、未だデビューの夢を持ち続けている者もいる。
「勝利はサーフィンもカッコいいんだ。
憧れてる奴はたくさんいるよ。」
「誰でもいいわけじゃ無いから。」
悲しそうな勝利が素敵に見えた。
「みんな、何かモッテルな。なんかみんなで出来る共通の目標ってないのかな?」
それはちょっと恥ずかしいやつだ。
「勘弁してくれ!
俺たちの取り柄はクールで冷めてるところ。
みんなで頑張る熱血ドラマはダサい。」
「ああ、確かに。」
水をさされた。
「何もかもお膳立てされて出来上がったモノの上で生かされてるだけ、なんてな。」
この仲間たちはほとんどが親の築いた仕事を継いでるようなものだ。与えられて渋々やっている。
「航が和菓子屋になるなんて思わなかったな。」
「モラトリアムの真っ最中に俺たち出会ったんだよ。」
それにしてはずいぶん薹の立った男たちだ。
人生を甘えすぎだろ⁈実生と蓮司は呆れて顔を見合わせた。
「早くいい女見つけて身を固めろってか?」
「他にないのかよ。人生って。」
勝利がバンドを辞めたのは、ゲイだからだ。
それでも好きになった人がいた。その人はゲイを全否定した。
もうピアノが弾けなくなった。声が出ない。
そんな事がしばらく続いた。
その時のツラい話を剛にした事があった。
剛は優しいやつだ。
二人は心を込めてセックスした。そしてそれだけで終わった。
今でもお互いに大切な人だ。
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