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第30話

店舗のリニューアルに向けて動き出した愛斗たちですが、想定外のことも起こるもので!? ******************************************  あっという間に一カ月が過ぎ、愛斗も柳田との距離がすっかり縮まったような気がしていた。 「それじゃ、その日程で厨房スタッフの面接をしてくれ。あぁ、高級店での経験のある人な」 ある日の休憩時間に、話し合いの後で愛斗が柳田に声をかけた。 厨房の増員については、スカウトも考えたものの店の評判にも影響するだろうから、募集をかけて面接をすることにしたのだ。 「はい、分かりました。そのようにします」 柳田の返事に愛斗が頷くと、柳田が尋ねてきた。 「ところで、最近は凄く忙しいですよね。体は大事にしてくださいね」 他でもない彼に労わりの言葉をかけられ、愛斗の心の奥が甘くしびれる。 「…ありがとう。そうだよな。倒れちゃいられないからな。お前も、休む時は休むんだぞ」 愛斗がそう返すと、僅かに柳田の顔が赤くなったような気がした。 「はい…。元気でないと、シェフを支えられませんから」 それだけ言うと、柳田は持ち場へと戻っていった。 もちろん、店舗のマネージャーとしてシェフを支えるという文字通りの意味なのだろう。 けれど愛斗は、もっと違う意味も含まれていることを期待してしまう。  その日のディナー営業も盛況で、厨房もフロアも大忙しだ。 愛斗がパスタを作るためにフライパンを振っていると、慌てた様子で柳田が厨房に入って来た。 「シェフ!」 「何だ!?今、手が離せない!」 まだまだやらなければいけないことが多いし、愛斗は苛つきながら叫ぶ。 「どうしてもシェフに会いたいという方がおられまして…」 出来上がったパスタを皿に移しながら、愛斗が答える。 「俺に会いたいだって…?」 忙しいからと、断ってくれれば良かったのにとも思う。 それに、お客に「会いたい」なんて言われることは滅多にないし、愛斗は訝しく感じた。 「はい。客席に来ていただけないでしょうか」 普通なら、お客に会ってみたいと言われたとしても、フロアスタッフの方で断るだろう。 でももし断ったのなら、お客の心証を悪くしてしまうかもしれない。 柳田も愛斗に話を通したということは、愛斗も拒否する必要もなさそうだ。 「…分かったよ。何番の席?」 「三番テーブルのお客様です」 出来上がったばかりのパスタは、ちょうど三番テーブルで注文されたものだった。 自分にわざわざ会いたいなんて言うお客はどんな人なのか興味を持った愛斗は、自分でパスタを運ぶことにした。 「俺が持っていくから」 「で、ですが…」 料理を運ぶのは基本的にはシェフの仕事ではない。 「いいんだ。わざわざ会いたいって言ってくるくらいだし、俺が直に持ってく」 「…分かりました」 頷き納得した柳田に続いて、皿を手にした愛斗も厨房から出ていった。  少し緊張しながら客席に行くと、愛斗は驚愕して手に持つ皿を落としそうになる。 「こちらのお客様です」 柳田が手で指し示した先にいたのは、以前にお客として来ているのを愛斗が見たことのある、あの人物だった。 『な、なんでこの人が…』 あまりの衝撃に、愛斗はその場から動けなくなる。 「お客様、シェフを連れて参りました」 柳田は何も知らないのでその人物に声をかけると、その客が愛斗の方に顔を向けて声をかけてきた。 「久しぶり。桜木シェフ」 不敵な笑みを浮かべる客を見て、ここが自分の店であると分かっているのだと愛斗は確信した。 ただどう反応して良いか分からないし、持っている料理も冷めてしまう。 少し考えた結果、愛斗は余計なことは言わずにシェフとして徹することにした。 意識して顔面に笑みを張り付ける。 「ご来店ありがとうございます。こちらがご注文いただいたパスタになります」 「あぁ…ありがとう」 「ところでお客様、私に何かご用がおありでしょうか?」 張り付けた笑みのまま愛斗が男性客に問うと、彼は何も言えないようだった。 「い、いや…何でもないよ…」 焦ったようにそう言うと、彼はフォークを手にした。 愛斗の作戦は取り敢えず成功したようだ。 敢えて一貫して笑顔を見せて隙を与えない対応をしようとしたのだ。 「それでは、お食事をお楽しみください」 頭を下げた愛斗は、柳田と共に男性客の前から離れた。 客から呼んできて欲しいと言われたから柳田が連れていったのに、あまり話さなかった愛斗と男性客。 柳田も変に思ったかもしれない。 けれど今は営業中で忙しいから、愛斗は彼に問い詰められることもなかった。 柳田もさほど男性客について気にもしていないだろうけど…。 例の男性客は、食事を済ませるとすぐに店を出て行ったようなのでその点で愛斗は安心した。 『なんでまた来たんだ?俺を呼んだのも、きっと意図的だろ…』 モヤモヤとした気持ちもあったが、営業中なので気持ちを切り替えることにした。 *************************************** 読んでいただきありがとうございましたm(__)m 愛斗の過去の知り合いとみられる人物が来店しました。 さて、この人物は一体何を考えているのでしょうか!?

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