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第33話
愛斗の元彼をやけに気にする柳田でしたが、彼は一体どう思っているのでしょうか!?
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柳田とのぎこちない関係が続いた一週間後の朝、愛斗の携帯電話が着信を告げた。
『一体、誰だ?』
ディスプレイを見ると、電話番号のみが表示されている。
「…」
番号のみということは登録はされていないので、愛斗は出ることを躊躇(ちゅうちょ)した。
それでも、着信音が鳴り続けるため電話に出た。
「もしもし…」
『やっと出たな。俺だよ、俺』
その声を聞いて、愛斗は背筋がゾッとする。
「誰だよ…」
分かっていながら、わざと尋ねた。
「分からない?亘だよ、わ・た・る』
そんなこと知ってる、と愛斗は言いたくなった。
きっと愛斗と別れた後に、亘は携帯電話の番号を変えたのだろう。
「…何の用だ?」
これから出勤の支度をしなければいけないし、亘に構っている暇などない。
『お前に会いたいなって思ってさ。時間作れよ』
「悪いが、今忙しいんだ。それに、アンタにもう会う気はないから」
『まぁ、そう言うなって。あのマネージャーとかって男と何でもないなら、会ってくれるくらいいいだろ?』
そう言う男の、下卑た笑みが愛斗の脳裏に浮かぶようだ。
「もうアンタとは終わったんだ。金輪際、俺に関わらないでくれ」
『いいのか?そんなこと言ってさぁ』
亘の言葉には、明らかな邪悪さが感じられた。
「えっ!?」
『明日、店休日だろ?午前十時にあのカフェに来い。来なかったら、お前とのハメ撮り晒すからな』
“あのカフェ”とは、亘と付き合っていた頃によく行っていたカフェのことだろう。
この男のことを、すっかり忘れていた。
亘は普通の会社員ではあるが、ダークな連中との付き合いもあった。
そんな危険な香りのする男だと分かっていて、愛斗は付き合っていたのだ。
ハメ撮りなどと、そんなものをまだ持っているというのか。
それはハッタリなのかもしれないが…。
「そんなことを言われても、行かないから。俺は」
毅然としてそう告げると、愛斗は一方的に電話を切った。
『そんな脅しに乗るかよ…』
とうの昔に終わった関係なのに、今さら苦しめられるなんて…。
いや、自分は拒否しているのだから諦めればいいのに…。
早く出勤の用意をしなければいけないのに、愛斗の気持ちは重くなるのだった。
亘からの電話はすぐに着信拒否したため、それからはかかってこなくなった。
彼が姿を現わすこともなくなったので、愛斗は安心していた。
亘は諦めたのだと思っていたし、店舗のリニューアルで忙しかったから。
それから数ヶ月が経ち、ようやく高級志向のメニューの提供が開始された。
何とか、VIP用の部屋も作ることもできた。
そしてこの日のディナーは、高田が政界の大物を連れてくるという。
自信はあるが、いつになく緊張してしまう愛斗。
その様子を見兼ねたらしい柳田が、ホールから顔を覗かせて声をかけてくれた。
「シェフ、どうしたんですか?いつもの調子で取り組めばいいのではないですか?」
「あぁ…そうだな」
高田からゴーサインの出たメニューを出すのだから、別に心配はないだろう。
しかし、もし失敗すれば高田の顔に泥を塗ることになるし、失敗は許されないのだ。
「あなたなら大丈夫です。落ち着いて」
素敵な低音ボイスでそう言われて、愛斗の心が和んだのと共に一瞬ドキリとした。
柳田がそう言ってくれるなら、きっと大丈夫だろうと思える。
「ありがとう。それじゃ、ホールの方を頼むな」
愛斗が礼を言うと、柳田は「お任せください」と言って頭を下げた。
厨房のスタッフたちも「集中しましょう!」と言って士気を高めている。
高田たちの来店まであと一時間、特別なお客を迎えるための準備を抜かりなく行う。
そして予約されていた時間に、高田が客人を伴い来店した。
「高田様とお連れ様がお見えになりました」
フロアから顔を覗かせた柳田が厨房に伝える。
「分かった」
愛斗が返事をすると、厨房内の空気はより張り詰めた。
それから手早く用意をされた前菜の皿を、愛斗が直々に高田の席へと持っていく。
「ご来店ありがとうございます。当店のシェフ、桜木と申します」
うやうやしく愛斗が腰を折ると、高田と連れの客は笑顔を見せた。
高田が連れてきた客人というのは、内閣で大臣を務めている人物だった。
『うわぁ…マジで大物じゃん』
実際に会うことなどないと思っていた人物を目の前に、愛斗は固まってしまいそうになる。
けれど、傍らには柳田もいるから心強い。
「内装が落ち着いていて品がある。素敵な店だね」
「ありがとうございます。こちらは、前菜のサラダになります」
「うむ、美味しそうだね」
「山本さん。桜木くんは腕の良いシェフだから、期待できますよ」
「そうか。それは楽しみだ」
山本大臣もご機嫌そうだ。
ハードルを上げられたような気もするが、愛斗は笑顔を心掛ける。
「誠心誠意を込めてご用意いたします。それでは、ごゆっくりお楽しみください」
高田たちに頭を下げると、愛斗は柳田に「後は頼む」と小声で託してその場を後にした。
ドルチェまで提供が終わり、愛斗は再び高田らのいる席に足を運んだ。
VIPが来ているのだから当然だし、愛斗も彼らが満足してくれているか気になるから。
「いかがでしたでしょうか。ご満足いただけたのでしたら、幸いです」
愛斗が問うと、高田と山本は満面の笑みを見せた。
「実に美味しかったよ。デザートまで大満足だ」
山本の言葉に愛斗は心底ホッとした。
ということは、この店も料理も認めてもらえたのだろうか。
「ありがとうございます」
「また来させてもらうよ」
ニコニコと山本が言うので、愛斗は内心ではしゃぎたいくらいに舞い上がった。
「良かったな。これからも頑張ってくれよ」
高田からの言葉も嬉しかった。
シェフとしてのモチベーションが上がるし、自信もより持てるようになるから。
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読んでいただきありがとうございましたm(__)m
VIPの来店を成功裏に終えた愛斗。
これからも穏やかな日々が続くと良いのですが!?
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