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第33話

愛斗の元彼をやけに気にする柳田でしたが、彼は一体どう思っているのでしょうか!? ***************************************** 柳田とのぎこちない関係が続いた一週間後の朝、愛斗の携帯電話が着信を告げた。 『一体、誰だ?』 ディスプレイを見ると、電話番号のみが表示されている。 「…」 番号のみということは登録はされていないので、愛斗は出ることを躊躇(ちゅうちょ)した。 それでも、着信音が鳴り続けるため電話に出た。 「もしもし…」 『やっと出たな。俺だよ、俺』 その声を聞いて、愛斗は背筋がゾッとする。 「誰だよ…」 分かっていながら、わざと尋ねた。 「分からない?亘だよ、わ・た・る』 そんなこと知ってる、と愛斗は言いたくなった。 きっと愛斗と別れた後に、亘は携帯電話の番号を変えたのだろう。 「…何の用だ?」 これから出勤の支度をしなければいけないし、亘に構っている暇などない。 『お前に会いたいなって思ってさ。時間作れよ』 「悪いが、今忙しいんだ。それに、アンタにもう会う気はないから」 『まぁ、そう言うなって。あのマネージャーとかって男と何でもないなら、会ってくれるくらいいいだろ?』 そう言う男の、下卑た笑みが愛斗の脳裏に浮かぶようだ。 「もうアンタとは終わったんだ。金輪際、俺に関わらないでくれ」 『いいのか?そんなこと言ってさぁ』 亘の言葉には、明らかな邪悪さが感じられた。 「えっ!?」 『明日、店休日だろ?午前十時にあのカフェに来い。来なかったら、お前とのハメ撮り晒すからな』 “あのカフェ”とは、亘と付き合っていた頃によく行っていたカフェのことだろう。 この男のことを、すっかり忘れていた。 亘は普通の会社員ではあるが、ダークな連中との付き合いもあった。 そんな危険な香りのする男だと分かっていて、愛斗は付き合っていたのだ。 ハメ撮りなどと、そんなものをまだ持っているというのか。 それはハッタリなのかもしれないが…。 「そんなことを言われても、行かないから。俺は」 毅然としてそう告げると、愛斗は一方的に電話を切った。 『そんな脅しに乗るかよ…』 とうの昔に終わった関係なのに、今さら苦しめられるなんて…。 いや、自分は拒否しているのだから諦めればいいのに…。 早く出勤の用意をしなければいけないのに、愛斗の気持ちは重くなるのだった。 亘からの電話はすぐに着信拒否したため、それからはかかってこなくなった。 彼が姿を現わすこともなくなったので、愛斗は安心していた。 亘は諦めたのだと思っていたし、店舗のリニューアルで忙しかったから。 それから数ヶ月が経ち、ようやく高級志向のメニューの提供が開始された。 何とか、VIP用の部屋も作ることもできた。 そしてこの日のディナーは、高田が政界の大物を連れてくるという。 自信はあるが、いつになく緊張してしまう愛斗。 その様子を見兼ねたらしい柳田が、ホールから顔を覗かせて声をかけてくれた。 「シェフ、どうしたんですか?いつもの調子で取り組めばいいのではないですか?」 「あぁ…そうだな」 高田からゴーサインの出たメニューを出すのだから、別に心配はないだろう。 しかし、もし失敗すれば高田の顔に泥を塗ることになるし、失敗は許されないのだ。 「あなたなら大丈夫です。落ち着いて」 素敵な低音ボイスでそう言われて、愛斗の心が和んだのと共に一瞬ドキリとした。 柳田がそう言ってくれるなら、きっと大丈夫だろうと思える。 「ありがとう。それじゃ、ホールの方を頼むな」 愛斗が礼を言うと、柳田は「お任せください」と言って頭を下げた。 厨房のスタッフたちも「集中しましょう!」と言って士気を高めている。 高田たちの来店まであと一時間、特別なお客を迎えるための準備を抜かりなく行う。 そして予約されていた時間に、高田が客人を伴い来店した。 「高田様とお連れ様がお見えになりました」 フロアから顔を覗かせた柳田が厨房に伝える。 「分かった」 愛斗が返事をすると、厨房内の空気はより張り詰めた。 それから手早く用意をされた前菜の皿を、愛斗が直々に高田の席へと持っていく。 「ご来店ありがとうございます。当店のシェフ、桜木と申します」 うやうやしく愛斗が腰を折ると、高田と連れの客は笑顔を見せた。 高田が連れてきた客人というのは、内閣で大臣を務めている人物だった。 『うわぁ…マジで大物じゃん』 実際に会うことなどないと思っていた人物を目の前に、愛斗は固まってしまいそうになる。 けれど、傍らには柳田もいるから心強い。 「内装が落ち着いていて品がある。素敵な店だね」 「ありがとうございます。こちらは、前菜のサラダになります」 「うむ、美味しそうだね」 「山本さん。桜木くんは腕の良いシェフだから、期待できますよ」 「そうか。それは楽しみだ」 山本大臣もご機嫌そうだ。 ハードルを上げられたような気もするが、愛斗は笑顔を心掛ける。 「誠心誠意を込めてご用意いたします。それでは、ごゆっくりお楽しみください」 高田たちに頭を下げると、愛斗は柳田に「後は頼む」と小声で託してその場を後にした。 ドルチェまで提供が終わり、愛斗は再び高田らのいる席に足を運んだ。 VIPが来ているのだから当然だし、愛斗も彼らが満足してくれているか気になるから。 「いかがでしたでしょうか。ご満足いただけたのでしたら、幸いです」 愛斗が問うと、高田と山本は満面の笑みを見せた。 「実に美味しかったよ。デザートまで大満足だ」 山本の言葉に愛斗は心底ホッとした。 ということは、この店も料理も認めてもらえたのだろうか。 「ありがとうございます」 「また来させてもらうよ」 ニコニコと山本が言うので、愛斗は内心ではしゃぎたいくらいに舞い上がった。 「良かったな。これからも頑張ってくれよ」 高田からの言葉も嬉しかった。 シェフとしてのモチベーションが上がるし、自信もより持てるようになるから。 ****************************************** 読んでいただきありがとうございましたm(__)m VIPの来店を成功裏に終えた愛斗。 これからも穏やかな日々が続くと良いのですが!?

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