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第34話
大臣にも褒めてもらい自信が持てた愛斗ですが、不穏な影が忍び寄っていることには気づきません。
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「まさか大臣が来るなんて、言っておいてくれよ」
その日の退店間際に、愛斗は柳田に愚痴(ぐち)った。
「私も知らなかったんですよ。誰なのか高田様にあらかじめお尋ねしたのですが、教えてもらえなかったんです」
どうやら、事前に誰なのか教えたら愛斗が変に緊張するだろうと思ったかららしい。
「そっか。今日は何か疲れたな。満足してくれたみたいだから良かったけどさ」
「お疲れ様でした。初めての大物のお客様でしたからね」
「あぁ。まさかうちの店に大臣が来るなんてな。高田さんの人脈どうなってるんだ、一体」
愛斗の言葉に少し笑いながら、柳田が店に鍵をかける。
「あのかた自身が凄いということでしょうね」
「だな。さ、帰るか」
愛斗が歩を進めようとした時に、柳田がある方向に視線を向けているのが分かった。
「ん?どうした?」
「…いえ…何でもありません」
その声のトーンは、明らかに警戒しているような調子だった。
しかし、愛斗はさして気にしていない。
「今日もお疲れ。お前がいてくれて本当に心強いよ。ありがとうな」
駐車場に向かいながら、愛斗の口から自然と出た言葉だった。
「…いいえ、とんでもありません。このお店で働くことは楽しいですし、生きがいですから…」
柳田の顔は暗くて良くは見えないが、頬がにわかに赤くなっている。
「俺も楽しいよ。じゃ、また明日な」
愛斗が柳田に声をかけると、互いの車へと乗り込んだ。
店のリニューアルと共にスタッフも増えたが、既存のスタッフたちとも仲良くやっている。
そんな姿を見ると、愛斗も安心する。
スタッフ皆が一丸とならなければ、良いサービスは提供できないだろうから。
高級メニューも評判が良く、このところ気分は上々だ。
「最後のVIPのお客様、美味しかったと満足されてお帰りになりましたよ」
ある日ロッカールームで帰り支度をしていると、柳田が話しかけてきた。
「そうか?それは良かったよ。最初はどうかなって思ったけどさ、大丈夫そうだな」
「あなたは凄い人です。このまま走っていってください。私はいつもここにいますから」
柳田の言葉に、なぜか愛斗はドキリとした。
「あ、あぁ…」
「そうだ。気を付けてくださいね、身の回り」
柳田がいつにも増して真剣なトーンで忠告してくる。
しかし愛斗には、唐突だったので理解しかねた。
「ん?どういう意味だ?」
「…いいえ、ただ何となく。さぁ、帰りますよ」
何だかわけも分からずに、愛斗はただ「あぁ」と頷くだけだった。
柳田と別れた時には、既に日を跨(また)ごうという時刻になっていた。
自宅マンションに到着し、地下の駐車場に車を停めてエレベーターホールに向かう愛斗。
すると、どこからともなく複数の男たちが近づいてきた。
一番前を歩いているのは、愛斗の元彼である亘であった。
『亘…』
もう会うことはないと思っていたのに、どうして今さら…。
それに彼の後ろには、ガラの悪い連中を三人従えている。
ニヤニヤと笑う表情が気持ち悪い。
『何でこんなヤツら連れて来てんだよ…』
愛斗に用があるなら、一人で十分じゃないか。
「よお」
亘が口の右端を上げて笑う。
その笑みは、彼が愛斗と付き合っている時に見せたものよりも邪悪さが滲んでいた。
「こんな時間になんの用だよ。お友達まで連れて来て」
「お前に会いに来たに決まってんだろ?」
「俺は、もう戻る気はないと言ったはずだ」
愛斗は毅然として言ったが、亘は意に介さない。
「お前は俺のもんなんだよ。いい加減に諦めろ」
愛斗が何度も拒否しているのに、まだそんなことをのたまうのか。
「アンタこそ諦めろ!」
「やだね。お前だけは手に入れる」
なんて傲慢で独りよがりな言い分なのだろうか。
交際中も自己中な面はあったような気もするが、ここまでとは思わなかった。
愛斗が冷めた口調で問う。
「今さらそんなこと言うなら、なんで俺を裏切ったんだ?」
「だから、悪かったって言ってんだろ?魔が差してちょっと手を出しちまったけどさぁ、とんだ食わせ物だったんだよな」
何でもないことのように亘が言うので、愛斗は余計に腹が立った。
目の前の男が心から悪いと思っているようには到底感じられない。
「もう、アンタのことは闇へと葬ったんだ。もう二度と俺の前に現れないでくれ」
「ったく、聞き分けが悪いなぁ。あんなひょろっとした男なんてやめて、俺のところに来いって」
無視して部屋に行ってしまいたいが、愛斗は身構える。
後ろにいる輩たちがいつ襲ってくるとも限らないし、隙を見せられない。
『なんで俺がこんな目に遭わなきゃなんないんだよ!』
愛斗は内心で毒づきながら、一歩後ずさった。
「そう怯えなくてもさ、うんて言えばいいんだよ」
亘や輩たちも距離を詰めてくる。
ヤバい…走って逃げようか…。
でも、この男たちに敵うわけがないだろう。
そんな考えが愛斗の脳裏に渦巻く。
今の家はバレているのだから、引っ越さなければいけないだろうか、ということまで思い浮かんだ。
「俺のものになれよ。でないと、お前の大事な店を潰すぞ?」
そうきたか、と愛斗は内心で溜め息を吐いた。
「そんな脅し、通用しないぞ!いい加減、俺に関わらないでくれ!」
亘は本当に、愛斗を裏切ったことを悔いているのか…。
そして愛斗を今でも本気で愛しているのか…。
亘からはあまり感じられなかった。
「お前の店のスポンサー、大企業だってな。でもさ、そんなの相手にもなんねぇぞ?」
「アンタのどこにそんな力があるっていうんだ!?」
愛斗の言葉に、亘は後ろに控える三人に手を上げて合図を送る。
すると柄の悪い連中が襲い掛かろうとしてきた。
喧嘩などあまりしたことのない愛斗は、『やられる!』と覚悟をしたのである。
しかしその時、何者かが突如として愛斗の前に立ちはだかった。
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読んでいただきありがとうございましたm(__)m
せっかく大臣からも褒められて気分を良くしていた愛斗ですが、またしても亘が登場しましたね。
彼は「俺のものになれ」としつこく言ってきていますが、一体どうなるのでしょうか!?
そして、愛斗の前に立ちはだかった人物とは!?
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