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百五 独特な贈り物

幸一は鏡花と一緒に露店を回していた。 いろいろ見ているうちに、だんだん異国の品物に夢中になり、さっきのつまづいたことをきっぱり忘れた。 「鏡花さん、気になるものはある?なんでもいいから」 「私はいいです。ずっとこの町にいるから、市があればいつでも来られます。幸一様の好きなものを見ましょう」 「さっきから見ていたよ。でも、やはり海の類がないな」 「海の類?幸一様は海の類がお好きですか?」 「好きと言うより、意地かな……」 幸一は苦笑した。 「以前、先輩のために『真珠の贈り物』を用意したけど、『うっかり』して『厄介な場所』に落とした。多分もう取り戻せないから、代わりのものをあげたいんだ」 幸一が言っている「真珠の贈り物」は、還初太子の世で「天良鬼が変わる」という念力を注いだ法具。旧世界の遺跡から戻ってきてからもう手元にない。 普通の真珠は同じ力がないのに決まっているが、幸一はやはりそれを「心の証」として修良に贈りたい。 修良にどんなに不要と言われても、修良を悪鬼の宿命から解放したい気持ちは、今でも変りはない。 「『真珠』、ですか……」 その二文字を聞いて、鏡花の目元が小さく動いた。 「今回の市に来ているのはほぼ北西の方の商人で、難しいかもしれませんね。装飾品の店に蔵出ものがあればいいけどね」 「ただの口任せだ。真面目に考えなくていいから」 鏡花の難しそうな顔を見ると、幸一はさっそくもとの話に戻る。 「今は、鏡花さんへの贈り物を選ぶのが先だ!鏡花さんはこれ以上遠慮すると、俺は勝手に選ぶかもしれないよ!」 幸一は笑って、とある巨大な牛角形の物に指さした。 「鏡花さんは洞簫が上手だから、異国の楽器はどうかな?」 「それは、楽器ではありませんよ」 鏡花はあのものに目を向けたら、思わず微笑んだ。 「雪山に住む人たちが大きな雪崩を防ぐために、普段からそれで巨大な音を吹き出して、一部の雪を落とします」 「よく知っているな!お兄さん!」 露店の店主は黒ひげの中年男。鏡花と幸一の話を聞いて、楽しそうに二人に話をかけた。 「これ、おいらのところで雪長号って言うんだ。これじゃと、狼の遠吠えみたいな音しか出さない。楽器に興味があったら、あれを勧めるぜ!」 数歩先の小さな踊り場で、一人の若い女性が琵琶に似ている弦楽器を演奏している。 活発な旋律で、岩が水玉を弾けるような音。 「洞簫とよく似合う音色だ!ありがとう、おじさん!」 幸一と鏡花はその女性の演奏を見ている人込みに入った。 「っ!あ、あなた、もしかして……仙縷閣の鏡花さんですか!」 あいにく、鏡花の顔を知っている観客がいた。 「えっ、あの白山神の鏡花さん?」 「ぎゃあ、本物だわ!」 「隣の人、誰?」 「綺麗……鏡花さんと似合いそう……まさか……」 「まさかね……」 何人かの観客は鏡花を中心に騒ぎ始めた。 (しまった!) 幸一は鏡花を連れて逃げようとしたが、鏡花は動かなかった。 「大丈夫ですよ。せっかくの市だから、幸一様はもう少し楽しんで過ごしましょう」 鏡花は幸一に微笑みをかけてから、人込みを分けて、演奏中の若い女性に歩いた。 鏡花は若い女性に何かを話したら、女性が楽しそうに何回も頷いた。 鏡花は洞簫を取り出して、幸一の方向に一礼をしてから、女性と一曲を共演し始める。 女性が演奏するのは、さっき一度演奏した異国の楽しい曲。 鏡花はその曲に合わせて、悠々とした優雅な旋律を奏でる。 ふたつの性質がまったく異なる楽曲なのに、お互いの美しさをよく引き出し、新しい色の旋律を紡ぎあげた。 幸一はその旋律に魅入られて、ただ鏡花を見つめていた。 頭の中で、遠い記憶の欠片が浮かんできた。 還初太子の世で、強引に天良鬼を人間のお祭りに連れたことがある。 祭り会場の舞台上、芸人たちが楽器演奏で観客たちの歓声を競う試合をやっている。 「鬼さんが洞簫を吹けば、きっと一番高い歓声をもらえるよ。舞台に上がらないのか?」 だんだん増していく歓声を聞いて、還初太子は半分冗談のつもりで天良鬼に言った。 「軽率な叫び声はいくらあっても意味のないものだ。本当に意味のある声は、一人分だけで十分だ」 天良鬼は冷たい視線と淡々とした口調でその冗談を台無しにした。 「それは残念、鬼さんのいいところをもっとたくさんの人に知ってもらいたかったのにな……」 その時の幸一・還初太子は苦笑しかなかった。 演奏が終わったら、鏡花は観客たちに向かって一礼をした。 「三日後は、白山神の千秋楽になります。短い間ですが、大変お世話になりました。仙縷閣の次の公演も、どうぞよろしくお願いいたします」 鏡花の公式対応は見事に人々の注意力を逸らした。 素晴らしい演奏をしてくれた鏡花と若い女性に、観客たちは盛大な拍手をあげた。 お礼を言い終わった鏡花は、自然に幸一を連れて人込みから身を引いた。 人の少ない裏道で、幸一たちは修良と幸銘に合流した。 「ほら、言ったろ」 幸銘ドヤ顔で笑った。 「鏡花さんは自分の人気と美しさに意識なさすぎる。馬車がだめでも、せめて覆面で出かけよう」 そう言って、幸銘は金色の刺繍の入った異国風のベールを差し出した。 「幸一の分もあるぞ!」 「いつそんなものを買ったの?」 従兄の用意周到に幸一はちょっと感心した。 「でも、鏡花さんの対応は本当にすばらしかった。一歩遅れて、変な噂になったら、鏡花さんに迷惑をかける。なんと言っても、今の俺の名声はかなり問題がある……」 野次馬たちの疑いと「玄天双煞」の汚名を思い出したら、幸一は鏡花への風評被害を心配した。 「別に迷惑なんて思っていません。皆さんが興味を持つ相手は私ではなく、舞台上の『鏡花』です。舞台上の役者らしさを見せすれば、皆さんも満足して理解をいただけます」 鏡花は笑って過ごしたが、幸銘は彼の話を同意しなかった。 「鏡花さんは人間を信用しすぎる。鏡花さんのような有名人に近寄ってきたものは純粋な応援者ばかりとは限らない。不届きものが混ぜている可能性も高い」 「その時に来たらその時に考えればいい。疑いながら人生を過ごすのはかなり疲れるものですから」 「……」 二人のやり取りを見て、幸一はまた疑問が浮かび上がった。 この二人の話が全然合わないのに、なんで一緒に出掛ける約束をしたんだ? 雰囲気がまずくなる前に、幸一は話題を逸らした。 「ごめん先輩、まだ贈りものを選んでいない……もうちょっと見てくるか?」 もともと幸一に助け船のつもりで頼んだことだから、修良はあっさりと話を変えた。 「いいえ、よく考えてみれば、こんなところで贈り物を選ぶのは粗末しすぎる。帰ってから、もっと適切なお店に頼もう」 「ひどいな修良さん、そんなことを言ったら、俺が幸一のために買ったものは贈れないじゃないか」 幸銘は二人の会話に割り込んだ。 「幸銘は俺のために?」 「この間、いろいろ付き合ってもらったお礼だ」 幸銘は一輪の数珠を幸一に差し出した。 「粗末な物で、申し訳ない」 「そんなことない、もらうだけで嬉しい!」 「ちょっと待ってください」 幸一が数珠を手にしようとしたら、鏡花は突然に止めに入った。 「その珠、髑髏ではありませんか?」 鏡花は一番大きな珠に指さした。 数珠の珠の大きさがバラバラ。珠の色は白、黒と木色、三種類が混ぜている。何枚かの大きな珠に細かい彫刻も入っている。手が込んで作られた異国の装飾物だけど、確かに、一番大きな珠は人間の頭蓋骨の形をしている。 鏡花はさりげなくその数珠を手にして、指で軽くいじってから幸銘に返した。 「独特な贈り物ですね。異国の風習では普通な装飾品だけど、この国ではちょっと使いにくいでしょう」 鏡花の指摘を聞いたら、幸銘の表情が短く固まった。でもすぐに苦笑で誤魔化した。 「やっぱり粗末すぎるか」 「大丈夫だ。全然気にしていない。みんなの体の中にあるのは全部これだから」 幸銘の困った表情を見て、幸一はさっそく数珠を受け取った。 「ありがとう、幸銘!」 「……」 さわやかに笑っている幸一を目にして、鏡花は仕方なさそうにため息をついた。 「幸一様はやさしいですね」 「幸一の考え方は独特なものだ。世の中に忌々しく思われるものでも平等視している――それは幸一のいいところだ」 修良は微笑んで補足した。

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