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百九 脅迫しに来た
修良は室内に入ると、さらにこの店の経営危機を感じた。
芍薬の話によると、経営が健全なほうに転向しているが、二階はまだ普通の青楼として営業している。
一階は木材や遮断布に覆われて、いかにも改造途中の様子。
芍薬の案内で、修良は何枚かの遮断布を潜って、劇場らしいところに到達した。
舞台は規模的に小型としか言えない。
観客席は一階しかない、舞台との距離も近い。
全体的に雑なできだ。
ただ、舞台上の役者は修良の注意力を掴めた。
火のような赤い髪とすらっとした体格を持つ男役者は、赤い糸と華麗な刺繍に装飾された白い衣裳を身に纏い、半分の狐の面を被っていて、優雅に踊っている。
修良はまた密かに笑った。
その役者は、珊瑚だったから。
啸風が観客席の中央に座っている。低気圧を散発しながら珊瑚の舞台を見ている。
彼の隣にいるのは汗が滴りそうな于又と、情熱的に店の将来性を語る一人の中年女性。
「ママ、粛衛将軍様のお友達さんが……」
「いいんです」
修良は芍薬の話を止めて、静かに観客席に入る。
「……仙縷閣はもう完成形ですわ、つまり、もうすぐ過去形になります。でもうちは違います。まさにこれからですよ!今投資すれば、損がありませんわ、いいえ、絶対爆儲けしますよ!あの役者を見てください。千載一遇の逸材でしょ、うちの娘が掘り出した輝かしい宝石ですわ!」
「……」
仙縷閣やこの店のことはともかく、役者が「千載一遇の逸材」「輝かしい宝石」という言葉に関して、啸風は反論するつもりはない。
「尊厳とかうるさいあの仙縷閣と違って、朝廷のご命令であれば、うちはなんでもしますよ。そうですね、我が皇帝陛下もそろそろ妃を迎えるお年頃ですね、うちの娘たちのなかで陛下のお目にかないそうな人がいれば、遠慮なくおっしゃってくださいませ」
女将さんの話しを無視するつもりだったが、于又はだんだん我慢できなくなって、ツッコミをした。
「あの、女将さん、皇帝陛下に青楼の娘を勧めるのは現実ではないと思いますが」
于又が童顔のせいか、店主は男の子をからかうように、爪先で彼の頬に突いた。
「あらら、恥ずかしがらなくていいわよ。端正な娘たちを見飽きた殿方たちは、こんな場所から拾った娘に興味津々なのは周知のことですよ。先帝が寵愛していたあの『妖妃』伽藍 氏だって青楼の出身でしょ~」
「……」
明らかに舐められたが、青楼のやりてばば相手に怒るのも体面を欠く。于又が返事に困っていたら、修良の声が彼を助けた。
「粛衛将軍様、楽しいお時間を邪魔して、申し訳ないです」
「!?お客様、ここは改装中ですよ。うちに遊びに来てくれるのが嬉しいですけど……」
修良の到来にまったく気付かなかった女将さんは小さく跳んだ。
だが、すでに修良の存在に察した啸風は表情が変わらないまま、ただ修良の方向に一目をやった。
「仙縷閣の店主さんは、なぜこんなところに?」
「えっ!せっ、仙縷閣の店主さんですか!?」
修良より先に、女将さんが反応した。
「やばい、やばいですわ!あの仙縷閣の店主がうちを偵察しに来きたなんて!見てっらっしゃい、将軍様!うち、絶対大物になりますわ!!」
さすが啸風でも営業夢中の女将さんに手を上げた。仕方がなく、于又に厄介払いを頼んだ。
「于又、女将さんにこの店の資料もらって来てくれ……ゆっくりでいい」
「は、はい!」
于又は気付きがよく、女将さんを誘導した。
「さあ、お店を候補名簿に入れる件について、まずお店に関する資料を拝見させてください」
「もちろんもちろん、何でも用意してあげますわ。あっ、でも、うちのクソ夫がそれをどこに置いたのかな、死んだ前にちゃんと作ったことがあるかな」
「……」
于又はため息をつきながら、女将さんを劇場の外に連れ出した。
修良は啸風の斜め後ろの席に座って、二人が目の合わない会話を始めた。
「粛衛将軍様がここに入ったのは不思議と思ったけど、それほど不思議でもないようですね」
そう言って、修良はもう一度舞台を見た。
「……」
珊瑚のことで皮肉されたと分かっているが、啸風は沈黙で対応した。
そもそも、珊瑚はなぜここの臨時役者になったのか、彼もさっぱりだ。
ここに来たのは、いきなり匿名な招待状を贈られたからだ。
修良の嫌味に気になっても仕方がないので、啸風は単刀直入に質問をした。
「修良さんの行動も不思議だ。今朝こちらの協力要請をはっきり断ったばかりなのに、夜にわざわざ会いに来てくたとは。もしかして、考えが変わったのか?」
「考えが変わっていません。ただ、できる範囲内での情報交換をしに来ました」
「どんな情報?」
「朝廷が救世主を判断する基準」
「それは朝廷の機密だ。こちらに協力しない限り教える道理がない」
朝と同じように、啸風ももう一度断った。
啸風の背中に向けて、修良はズルっぽく微笑んだ。
「そもそも、基準はまだ固まっていないでしょうね。本当に基準があったら、幸一や鏡花たちが救世主かどうかもう判断がついたはずです」
「……」
啸風の無返事が黙認だと修良は理解して、更に追い詰めた。
「基準がないなら、誰が本当の救世主なのか、本当に複数人がいるのか分からなくて、朝廷も困っていますね。
あの太陽太歳、鏡花、幸一が候補でしたら、候補の全員が私――滅世の鬼と関わりがあることになります。あの太陽太歳も、私を標的にしました。幸一たちより、私こそが救世主を判断する『鍵』と思わないですか?」
「……」
啸風は知っている。修良は救世主の一件の焦点を幸一から彼自身に逸らそうとした。
だが、理屈が正しいかもしれない。
それでも、啸風は修良のような厄介ものと交渉するのが得策ではないと考える。
とりあえず、振り向かずに修良に注意をした。
「こちらはまだ情報交換を認めていない」
だが、修良は啸風の無視して続けた。
「そして、もう一つ。今までの救世主候補たちは、みんな完全な人間ではないです。ちょっと違和感があるけど、よく考えて見れば、それほどおかしいことでもありません。人間に貢献するものは、必ずしも人間である必要はありません。例えば、粛衛将軍様、そして、今の皇帝陛下――」
最後の四文字、修良はわざと話し速度を落とした。
「!」
啸風は即時に悟った。修良は情報交換のために来たのではない。
「脅迫」しにきたのだ。
やはり珊瑚の言った通り、厄介すぎる相手だ。
だが一方、救世主に関して、啸風自身の疑問も多い。
救世主が「修良――滅世の鬼」に関係していることは事実だ。
修良なら、何か肝心な手掛かりを見えるかもしれないし、自分が断れば、彼はほかの道で救世主選定の秘密を探り出すかもしれない。
ここは一歩を退いたほうが、未来の問題解決に有利だろう。
思考を定め、啸風は修良に返事を出した。
「予言詩だ。朝廷の観星官が、救世主に関する予言詩を授けられたそうだ」
その返事を聞いて、修良はなんとなく納得した。
「なるほど、道理で基準が固まってないですね。それにしても、手法が古いですね」
「ああ、腐るほどに」
予言の手法に関して、啸風は修良に同意した。
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