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百十七 秘密の深淵へ

幸一は深夜まで仙縷閣に帰らなかった。 修良は幸一の居場所を探知しようとしたら、異様に気付いた。 幸一は、自分の波動を遮断した。 修良が幸一につけた二十四種類の追跡方法が全部無効になった。 前回にこんなことがあったのは、幸一が還初太子の意識が目覚めた時。 神になると決めた幸一は、わざと自分を遠ざけた。 でも、今回は鏡花に注意しに行くだけなのに、遮断する必要がないはずだ。 今の幸一の力でなら、人間界で危険に遭遇することはない。しかし、救世主など不穏なこともあったので、万が一のことを考えて、修良は幸一を探しに出た。 修良は仙縷閣を出たまもなく、後ろから呼ばれた。 「幸一を探しに行くのか?修良さん」 振り向くと、そこに幸銘がいた。 「……」 幸銘がここに現れたということは、幸一の身に何かあった確率が高い。 「幸一は何処ですか?」 修良の質問に向かった、幸銘は淡々と笑った。 「誤解しないでくれ、俺は幸一に何もしなかった。むしろ幸一のために修良さんを止めに来たんだ。今は幸一を探さないでほしい」 「幸一がそう言ったのですか」 「いいえ。ただ、誰でも知られたくないことがある。特に、好きな人に」 「それは私と幸一の間のことです――他人の意見は不要だ」 修良は口調を固めた。 「ふん、他人か……」 幸銘は軽く自分を嘲笑った。 「修良さんがそう言うのなら仕方がない。ついて来い。幸一が待っている」 「分かった。行こう」 修良は迷いもなく、幸銘の後についた。 普通なら、修良はすでに相手を縛って、事情を吐かせたのだろうが、幸銘を見ると、なぜか躊躇った。 本当の従兄でもないのに、幸一とよく似ている輪郭を持つ。しかも、やはり人間以外の気配がしない。 自分の感知力を越えるこの「偽物の幸銘」、一体何者……? 幸銘は修良を世界の縫い目の一番深い峡谷に案内した。 暗い森の中で、巨大な結界が白く輝いている。 「これは、幸一が作ったのか……」 力の波動から、修良は結界の主が分かった。 「その深淵の中に、罪深い禍がいっぱいある。幸一はその中に降りて、禍を浄化しに行った。かなり時間が経ったから、今頃すでに危険な目に遭って、修良さんの助けを待っているのかも」 幸銘は適当に嘘をついた。 「そんなことはない」 三秒もいらない、修良は冷静に幸銘の話を否定した。 「たとえ本当に危険な禍があっても、こんな結界ができる余裕があるなら、まず私に連絡するはずだ。おそらく、あなたは何らかの言い訳で幸一をほかのところに行かせたのだろう」 修良は幸銘のほうに歩む。 「あなたは誰だろうと、私に用があるなら、直接に教えてくれればいい。真面目に嘘をつくつもりもないのに、これ以上幸一を言い訳にしないでくれ」 「……」 修良の洞察に、幸銘は思わず姿勢を後ろに引いた。 「修良さんは幸一をよく知っているつもりだけどね、もしも、その禍を招いたのは幸一自身だったら、彼は素直に修良さんに助けを求めるのかな」 「禍を招いたのは幸一自身……?」 修良は少しだけ戸惑ったが、すぐ問題を幸銘に投げ返した。 「事情を話してくれないと、私は判断できない。まずあなたの話を聞かせてもらおう」 「フン、どいつもこいつもうるさいな。俺は無駄な喋りが一番嫌いだ」 幸銘は手を幸一の結界に触れる。結界は彼を拒むこともなく、逆に、彼に霊気を輸送し始めた。 幸銘の手頸に彼が幸一に送ったのと同じ数珠がつけている。数珠が共鳴の音をだし、霊力の光が輝く。 「幸一が作った結界を操られるのか……」 完全に驚いていないのが嘘だが、修良はその事実を納得した。 あの|太陽太歳《たいようたいさ》が連れていた子供も、幸一の力を吸い取られる。 外見や性質があまりにも違って、両者を繋げるまで時間がかかったが、今はやっと幸銘の身分が分かった。 「なるほど、鏡花さんが噂の救世主だったら、あなたは神の使者、『天命の星』というものだろう」 「――それだけじゃ足りないんだよ」 幸銘は結界から吸い取った霊力が大きな刀に変化した。 幸銘は刀を掲げ、問答無用と修良に振り回した。 修良は防御も反撃もしなく、ただ避け続けた。 はっきりとした結論がないのに、感で分かる。 幸銘は絶対に戦いたくない相手だ。 修良に深い考える余裕を与えず、幸銘は猛攻撃をかけてきた。 あっという間に、幸銘は修良を結界のほうに押し切れた。 「避けるばかりじゃなんにもならないよ。天良鬼」 「っ!?」 いきなり、修良の後ろの結界に空洞が現れた。 修良が「天良鬼」と言う呼称に戸惑った一瞬、幸銘は刀を投げ出し、修良の胸を貫いた。 修良はその衝撃力で、結界の中――深淵に落ちた。 「俺は一体誰なのか、よく考えてくれよ」 幸銘は結界に向かって一言を残したら、穴を封じた。 「さてと、朝廷のやつらも頑張っているから、彼らを遊びに誘おうか」 幸銘が身を翻すと、全身が雷に撃たれたようにけいれんして、ドンと膝が床についた。 「!!」 幸銘は体を必死に抱きしめ、誰かに訴えるように言葉を吐いた。 「うるさい……この力は、どう使うのか、俺が決める!救世主に力を渡さなくても……救世主がいなくても、俺は、悪鬼を消滅する……!」 *** 修良は深淵に落ちる。胸に刺された刀が形のない霊力になって飛び散った。 修良は焦らずに、一陣の風を起こし、落下の速度を落とし、体を重力に任せた。 幸銘は、幸一の結界の力を使えた。 幸一の神級の力は唯一無二。 あの太陽太歳についている子供の用に、何らかの手段で力を吸い取るのはまだ可能かもしれないが、形となった力を意のままに使うのは至難のこと。 一番考えられる理由は、幸銘と幸一は、同じ人物ということだ。 例えば、玄天派の景媛と景姝姉妹、前世では一つだった魂が今世で二人の人間に転生した。 しかし、幸一の魂は自分が数万年ずっと守っていた。分離することは絶対にない。 まさか、旧世界で、幸一の魂が分離したことでもあったのか…… そういえば、幸銘の数珠に何か仕掛けがあるようだ。 おそらく、その腕は幸一に送ったものとは対で、幸銘は数珠が起こした共鳴に通じて、幸一に「なりすました」。 だとしたら、幸銘は幸一はまだ完全に同じ人ではない。「完全」になるためには補助が必要。 それでも、二人が「酷似」しているのは偶然ではないだろう…… どのくらい落ちたのか、修良は深淵の底に触れた。 深淵の底にあるのは土でも岩でもなく、平たい氷だった。 「?自然にできたものじゃないようだな」 修良は光の玉を灯して、足元を観察した。 「!」 氷の下に、たくさんの人と白い花が封印されている。 どの人間も凶悪な顔立ちと表情で、彼の間に散らばった無垢な白い花といい対照になる。 修良は手で氷に触る。 氷の下の花から微弱な浄化の霊力を感じられる。 氷自体は凄まじい妖気の匂いがする。 「あの啸風の妖気と似ているな。彼が作った結界なのか……」 「この人間たち、もしかして、あの狐が探している罪人なのか……」 凶悪な人間と妖気の溢れた氷、どれも存在感が強いのに、なぜなのか、修良はやはり白い花が気になる。 微かだが、白い花から感じた霊力はとても優しくて、懐かしい。 氷は強制力で人間たちを封印したというのなら、白い花は浄化の力で人間たちの凶気を中和しいるのだ。 誰かが霊力を花に付着させたのだろう。 白い花といえば、仙縷閣に贈られた膨大な数の応援花としか浮かび上がらない。 やはり、鏡花なのか……

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