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百十八 一瞬だけの記憶

霊力の波動を操作することで、物事の外見を改変できる術がある。 変化の術に得意な妖怪はたくさんいる。人間の高級な法師もそれができる。 そもそも自分の顔も、その方法で冥清朗に似せて造られらたものだ。 鏡花の顔も同じ方法で造られたのかもしれないが、天良鬼の顔を知っている人は幸一以外にこの世に存在するのか…… それに、外見を改変できても、魂や霊力の波動は改変できない。 幸銘がもっとも幸一に似ているものは、外見ではなく、波動のほうだ。 幸銘は作られたものだとしたら、彼を「作った」のは一体誰なのか? 人間も妖怪もできないことを成し遂げる―― もしかしたら、「神」なのか…… 神の使いだったら、自分の消去と幸一の力の帰還が目的だろうが、 幸銘はあの太陽太歳のように派手な攻撃をしなかった。 幸銘は自分のことを天良鬼と呼んだ、それに、 「俺は一体誰なのか、よく考えてくれよ」 と彼は要求した。 作られたものではないなら、彼の正体や目的が天良鬼に関係があるだろう。 もしかしたら、自分が持っていない天良鬼の記憶と関連があるかもしれない。 記憶を探ってみるしかないようだ。 記憶を探る術は、現在の意識を魂に底に沈ませ、眠っている深い意識を探ることだ。過去の生に何があったのか誰にも分からない。やすやすと終結したものに触るがの極めて危険なこと。場合によって、自我を失い、二度と戻れない可能性もなくもない。 だから、行う前に、きちんと保護の術を施し、できれば、補佐の人が付き添ったほうが確実だ。 修良は一度を頭を上げて、幸一の結界が幸銘に修復された。 足元には凶悪そうな人間がたくさんいるが、強い氷の結界と浄化の花に堅実に封印されている。まして、修良は旧世界のすべての悪意に侵蝕された悪鬼、この人数の人間はどれだけの悪意を発しても、修良に影響はない。 ある意味、保護の術はもう張ってある。 (ちょうどいい、ここでならほかの邪魔はない。) 修良は目を閉じて、意志をを沈ませ、記憶を探り始めた。 新世界で生きた時間は数万年、はっきりとした記憶は幸一の転生に関わる時期、宗主と約束をした時期、新世界に到着したばかりの時期しかない。旧世界で生きた時間はもう数えるようもない。 一体、どこで、幸銘らしい人に会ったのか? 幸銘の波動を辿ると、夕陽が映している彼の目の色が胸に染みる。 還初太子の最後の目に似ている。 彼と自分と幸一との繋がりは、やはり旧世界にあったのか。 修良は意識を旧世界の記憶の深海に沈ませる。 なぜか、もともと静寂だった過去の記憶が、何かが壊れたようなズカズカの音を出し続ける。 まるで警告の音だ。 異様に気付きながらも、修良は探り続けた。 どのくらい経ったのか、一人の青年の姿が浮かび上がった。 「遅いよ、バカ」 青年が彼に向かって言葉を呟いたら、大きな刀の向きを変えて、自分の腹を貫けた。 (!!) 修良の胸も冷たい空気の刃に貫けられたような感覚がした。 一瞬だけの記憶。 決してよい記憶ではない。 だが、とても、とても重要な記憶の気がした。 修良は更に意識の深いところに潜ろうとすると、一片の黒い霧に道を遮られた。 そして、全ての方向から自分の声が響いた。 「滅びよう……」 (!) 「それだけのために、この悪鬼は存在する……」 (!) 「思い残すことは何もない……」 (!) 「最初から滅ぶべきの世界だ……」 霧と音波が強い共鳴を出し、修良はその共鳴に縛られたように動かなくなった。 (潜らない……!?) (動かない!?) 進むことも、退くこともできなくなった。 黒い霧は修良に集中し、修良を中心に悪鬼のが姿を描く。 (このままだと、悪鬼化する……!) 修良が焦ると、目の前に、一点の白い光が浮かび上がった。 よく見て見れば、その光は小さな花の形をしている。 汚い黒霧のなかでも、悠々と踊っている。 修良は思わず、その光に手を伸ばした。 彼の指先が光に触れそうで触れない。 錯覚なのか、その光の花から、楽しそうな笑い声を聞こえた。 とても懐かしくて、長く忘れていた誰かの笑い声だった…… その笑い声の導きで、修良の意識が静かになり、黒い霧から脱出して、現実世界に戻った。 「修良さん、そこにいる?」 修良が目を開いて聞いた最初の一声は、彼が厄介扱いの珊瑚の声だった。 頭を上げると、幸一の結界がもう消えたのに気付いた。 珊瑚の声を出したのは目の前に浮かんでいる一団の火玉だった。 「どうした?罪人を捕まえに来たのか?」 修良は火玉に向けて返事をした。 「そうそう。だから、ご自分で上がってくれる?自首に見なしてあげるから」 「自首?なんの話だ」 珊瑚の話が訳も分からないが、修良はとりあえず崖の上に戻った。 深淵のなかでは気付きにくかったが、崖の上はもうすっかり昼頃になった。 そこで修良を待っているのは珊瑚だけではなく、啸風と数人の兵士もいた。 何か事情があるのに察したが、修良はとりあえず珊瑚に話をかけてみた。 「その下に氷に封印されている凶悪そうな人間が五十人ほどいる。お前が探している罪人たちだろう」 「その人たちはもちろんだけど、それがしが今から捕まえるのは修良さんですよ~」 そう言って、珊瑚は一本の縄を投げる。縄が自動的に修良の両手を縛った。 「どういうことだ?」 修良は慌てずに問い詰めた。 「実は、修良さんが罪人を拉致した張本人という通報を受けましてね……」 「なるほど、だから真犯人を見つけられない無能な役人はその通報をいいことにして、調査もせずに、のこのこと身代わりを捕まえに来たのか」 修良は容赦なくツッコミをした。 珊瑚は気まずそうにアハハと笑って、修良に耳打ちをした。 「まあまあ、これは訳ありだから、とにかくついてきてもらえないかな?」 「その訳は?」 「修良さんも言っただろ、その下に五十人ほどしかいない。残った二百人の居場所が知りたいなら、修良さんを捕まえて来てって、とある人に交渉を持ちかけられたんだ」 「もしかしたら、幸一の従兄の、玄幸銘と名乗る人物なのか?」 「あら、もう知ったのか?やっぱりちなんでいる?もしかしたら、本当に張本人?」 珊瑚は冗談交じりに聞いたが、修良の表情がいっそう真面目なものになった。 幸銘の企みはますます分からなくなるが、標的は幸一より、自分のほうにあるのは間違いないはず。 「ある意味で間違いないだろう」 「えっ、本当に!?」 驚いたのは珊瑚のほうだ。 「まさか、あいつも救世主に関係のあるやつ?確かに、鏡花に付き纏っているという報告だったけど……」 珊瑚は事情をもっと聞こうとしたが、修良は答えずに率先して歩き出した。 「行こう。あの狼は睨んでいる」 啸風の氷山みたいな表情をチラッと覗いて、珊瑚は鼻で軽く息を吹いた。 「いつものことだ。気にする必要はない。一昨日の夜みたいに挑発しになければ、あいつも役人らしく余計なことをしない」 「一昨日?」 修良はその時間に気になった。 「挑発というのは、快活楼でのこと?」 「そうそう、そんな脅迫行為はよくないよ。あいつの頭がかなり硬いから、本気にしたらまずいかもしれない」 「……」 (記憶探りに、そんなに時間がかかったのか。) おかしい。 意識の移動は瞬時にできるもの。 意識世界で発生したことがかかる時間は、通常、現実世界の一瞬に過ぎない。 なのに、あんなに少ない情報を探るには二日もかかった。 自分の記憶は、やはりおかしい! 「修良さん?」 珊瑚が催促したら、修良は我に返って、珊瑚たちと一緒に官府に向かった。

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