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第3話 え? なんかうまくいきすぎじゃない? ――ま、いっか!
レストランを後にし、車が向かったのは海沿いの静かな公園。公園の中もライトアップされていて、海の向こうにビル街の夜景がみえることで有名な所だった。
ラブホじゃなかったか~……と少しがっかりしながらも、俺は海斗さんの横を歩く。
明日は月曜日で平日なのに、夜の10時を過ぎた時間でも人の姿は意外と多かった。身を寄せ合ってベンチに座っているカップルなんかも結構いる。
「有くん、ちょっと寒くない?」
「えっ、あ、大丈夫……ひゃっ!」
突然肩を引き寄せられて、身体が密着する。
「風、冷たいから。ほら、もうちょっとこっちにおいで」
――…………うぅわ~~~~~~!!
俺は心の中で絶叫した。
後ろから抱きかかえられるようにして、海斗さんが着ているジャケットで俺の身体を包み込んだのだ。
瞬間海斗さんの甘い体温に包まれ、ぶわっと俺の体温も上がる。
見上げた夜空には星が散らばっていて、海の向こうに街の灯りが瞬いていて。しかも海斗さんの吐息が首筋をくすぐって……。
もうだめッ、めっちゃムラムラしてくるぅッ!!
海斗さんはものすごく紳士っぽいし、もしかしたらあんま性欲も強くないタイプかもしれないけど、ホテルに連れ込んで上に乗ったらどうにかなりそうじゃない!?
俺一応オメガだし、海斗さんはアルファだし! 初めて会った時の感触からして、絶対相性いいと思うんだよな~~~!
もうこうなったら、こっちからホテル誘ってみる……!?
そんなことを考えていると。
「……ねぇ、有くん」
「うん?」
「俺、君に惚れたかもしれない」
「……」
「…………」
「……………フゴオオオッ!?!?!?」
変な声出た。
いや無理でしょ! だっていきなり! その顔で! そのトーンで!! そんなこと言われたら!!
「そ、そそそそそんな、さらっとヤバい爆弾落とすのやめてぇぇえ!! 心臓爆発する!!」
「ははは、有くんは本当に可愛いな」
「え? なに!? 惚れたって、海斗さんが、俺に!? な、う、嘘っ」
「嘘じゃないよ」
身体の向きをくるっと変えられ、正面から向かい合う形になった。思わず後ずさりしそうになった俺の腰に手を回し、海斗さんが顔を近づけてくる。
「有くんは、俺みたいな男は好みじゃない?」
不安そうに顔をのぞき込まれ、その超絶イケメンの顔を至近距離で見た俺は瞬時にノックアウトされた。
「めっちゃ好みですうぅぅぅ~~~~!!!!」
「え? 本当? それじゃ俺と付き合ってくれる?」
「付き合うっ!!」
「うわあ、信じられない。ユウくんみたいなかわいい子の恋人になれるなんて」
照れたようなはにかみ笑顔で海斗さんが言う。
――もうだめ! 好き! 好きになっちゃうううぅぅ!!
俺の心臓はキュンキュウンと鳴りやまない。だって一目見たときからめちゃめちゃかっこいいなあって思っていたのだ。こんな人とヤッてみたいなあって。
悶えていると、海斗さんがぎゅっと手を繋いでくれた。
「ああ、嬉しいなあ。俺たち今日知り合ったばっかりだし、ゆっくりお互いを知っていこうね」
……あ、これって、もしかして今日はラブホ行かない流れだな!?
俺はちょっとがっかりしならも「はい!」と元気にお返事した。
今日は抱いてもらえなかったけど、まあ付き合ったら近いうちにエッチできるんだし、しかも恋人だから付き合っている間は何度も出来るし、結果としてはオールオッケーだ。
ほわほわと微笑みあいながら夜景デートを楽しみ、そのあと車でアパートの近くまで送ってもらった。
「あ、この角のところまで大丈夫だよ」
「えっ、駄目だよ。夜道は危ないんだから、有くんの家の前までちゃんと送るよ?」
そう言われて俺はちょっと考え込んだ。
今俺が暮らしているのは築50年のぼろアパートだ。弁護士でリッチな海斗さんに見られたら、貧乏くさいって思いっきり引かれる可能性がある。
「あ――、えっと! 俺のアパートの前、めちゃめちゃ道狭くてさ! この車ベッコベコになっちゃうから!」
適当なことを言って「へへへっ」とごまかし笑いをすると、海斗さんはしぶしぶ頷いた。
「わかった。それじゃしばらくここにいるから、何かあったら大声出すんだよ? すぐに駆け付けるからね? それと部屋に付いたら連絡して?」
え~~!! めっちゃ心配してくれてる! しかも口尖がってる! 可愛いかよ~~!?
俺は内心で思いっきり悶えながら「はい!!」と元気にお返事した。
「それで次、いつ会おうか?」
「いつでもっ! 海斗さんが暇な時ならいつでもっ!!」
俺の言葉に海斗さんは驚いたように目を見張った。
あ、この答えじゃまずかったかな。海斗さん弁護士だもんな。きっとものすごく忙しいだろうし――。
「……それじゃ水曜の夜はどうかな」
わあ、三日後じゃん! 意外と弁護士さんって暇?
「もちろん大丈夫! ばっちり朝まで空けておくね!」
「え?」
「……あっ」
嬉しすぎて余計なことまで言ってしまった。海斗さんが照れたように笑う。
「その気持ちは嬉しいけど、水曜は平日だから」
「あっ、あはは~~~!!! そうだよね、海斗さんお仕事あるもんね!」
恥ずかしくて空笑いをしていると、ふいに海斗さんが身を寄せてきた。俺の首に嵌められたオメガ用のカラーにそっと触れる。
「うん、だから、朝までは今度、ね?」
「はひっ!!!!」
耳元に息を吹きかけられるようにつぶやかれ、俺は飛び上がった。
何その色気ぇ!! 勃ちそうになったんだけどおぉ!!
俺はへろへろになりながらもエスコートされ、車から降りた。
「お休み、有くん」
「おやすみ、海斗さん」
まるで恋人同士のように見つめあって別れを惜しむ。
……って恋人同士だった!!!
「そ、それじゃ!」
柄にもなく恥ずかしくなって、力の限り手を振ると全速力でアパートまでダッシュをした。
狭いワンルームの部屋に転がり込んで、ベッドの上の上に思いっきりダイブする。
「ぎゃああああああ好きぃぃぃ!! 海斗さん好きぃぃぃ!! 」
テンションは、もはや限界突破。
へらへら笑いながら、俺は枕を抱きしめごろごろとベッドを転がる。
すると、玄関にぶん投げたままのバックからメッセージの新着通知が聞こえてきた。
見ると海斗さんからだ。
【無事に部屋についたかな】
「あっ、そうだ! 着いたら連絡してって言われてたんだった! やば、忘れてた~!」
慌ててメッセージを打つ。
「えっと、『無事についたよ! 今日はごちそうさまでした♡』、でいいかな……?」
ぶつぶつ呟きながら入力してメッセージを送ると、返事はすぐに来た。
【無事についたようで良かった。こちらこそ今日はありがとう。君といると、時間があっという間に過ぎてしまってびっくりしたよ。また会えるのが楽しみだ】
「ひえええええええええ!! やっぱり好きぃぃぃぃぃ!! もう早く抱いてよぉぉおお!!」
スマホを握り締めベットの上でごろごろ悶えていると、またぴろん♪ と新着通知。
【きちんとカーテンも閉めて、鍵も閉めるんだよ。今日は夜中から雨が降るから、洗濯物とか干しっぱなしにしないほうがいいからね】
「…………え?」
俺はゆっくりベッドから起き上がった。窓の方を見ると、カーテンが開いたままの状態で、その向こうのベランダには、朝干していった洗濯物がそのままぶら下がっていた。そして玄関の方を振り返れば、鍵もドアガードもしていない状態。
俺はあれ? と首を傾げた。
なんで海斗さんは、俺がカーテンも鍵も開けたままだってわかったんだろう。しかも洗濯物も干しっぱなしだってことも。
アパートの場所も教えていないのに。まるで見ているかのように海斗さんが言い当てたのはなんでだろう……。
ずきん、と頭が痛くなった。
俺はいつもそうなのだ。難しいことを考えようとすると、すぐに頭が痛くなってしまう。まるで『これ以上考えるな』って言われているような気がして、俺はいつも通り諦めて開き直った。
「――まあ、いっか!!」
きっと海斗さんはめちゃめちゃ勘が鋭いタイプの人なんだろう。うんうん、そんな感じするよな!
俺は考えるのをやめ、鼻歌を歌いながら海斗さんへの返信を打ち始めた。
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