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春を告ぐ場所5
以前広蔵市場へ来たときは屋台に気を取られていてお店には目がいってなかったけど、今日はしっかりとお店を見ると、布団を売っているお店が数店あった。その中のひとつに入った。布団はセミダブルのもの。今は使わないけど毛布もあったほうがいいのかな?
「韓国って冬寒いけど、オンドル使うだろう。毛布っている?」
「オンドルは弱めだから、毛布はあったほうがいい。真冬なんて掛け布団1枚だと寒くて無理だよ」
「そっか。じゃあ毛布も買っていった方がいいか」
韓国でも冬に終わりを告げ、桜が咲いているけれど、まだまだ冷え込むときがあるからか、毛布も少し売っている。後で買ってもいいけど面倒だから一緒に買っていっちゃおう。
掛け布団、枕、毛布、掛け布団カバーに枕カバー。全てを一気に買った。
「ほんと明日海は悩まないよね」
「だって、これの何を悩むんだよ。掛け布団にはカバーをかけるからサイズだけあってればいいから、悩むのって掛け布団カバーと枕カバーだけだろ。カバーは色だけ気に入ってればいいだろ」
「でも、カバーの模様とか気にしない?」
「んー。俺は無地でいいし。だから迷う必要がないんだよ」
あまり迷わない俺に、イジュンは驚くけれど、あまり執着がないというか、ほんとに柄はいらないから好きな色であれば無地のカバーがいいから、ほんとに悩む必要がない。
お店で会計を済ますと、1度車に戻って布団を車の後部座席に詰め込む。これで今日の買い物は終わりだから、広蔵市場で食べて帰る。
「あ! 食器を買ってないけどいいの?」
「食器は持ってきてあるから大丈夫。韓国のステンレスデビューはしないよ。なんか情緒ないじゃん」
「布団カバーは無地でいいっていうのに、食器に柄を選ぶとか明日海の基準がわからない」
「そうかな? ステンレスは味気ないよ。日本人的には慣れないな」
食器は陶器がいいと思うのは、やはり日本人なんだろうか。ステンレスという材質はちょっとな、と思ってしまうんだ。だからお茶碗とお皿、お箸、湯呑み、マグカップと一通りは持ってきたんだ。結構スペース取ったし、割れないように慎重に持ってきたけど。
「ふーん。じゃあほんとなにか食べよう。なにが食べたい?」
「ビビンバが食べたい」
「コチュジャン使われてるけど大丈夫?」
「うん。そんなに辛いわけじゃないから。でも、辛いものも慣れていかなきゃな」
「少しずつ慣れていくよ」
「そうかな? でも、冬にきたときにお婆さんとお母さんに貰ったキムチが美味しかったから、日本でもキムチ買ってみたんだよ。味は落ちたけど、辛いのはなんとか大丈夫だった」
「あーキムチは今はマートで買う人増えたけど、それでも家で漬けるのがまだまだ根付いてるからね。家で漬けたのが、その家の味で美味しいんだよ。今度、キムチ持って来るよ」
「お店のオープン前に貰っておく。キムチと甘い物だとちょっと……」
「確かに」
俺達はそんな話しをしながらビビンバを扱っている屋台へと行った。見てると韓国人は何店かはしごして好きなものだけを食べているようだ。屋台だとそういうことが自由にできていいな、と思う。そして俺はこの屋台で食べるのが気に入っている。冬にここで食べたときに、好きなものを好きなお店で少しずつ食べられるというのにハマったんだ。普通のお店に入っちゃうとこれができないから、これができるのが屋台の醍醐味だと言えるんじゃないかな?
まだオープンしたばかりの屋台は、席は空いていた。これがもっと時間が経つと混んでくる。座ったビビンバのお店はビビンバ発祥の全州ビビンバだった。ご飯と具材を混ぜて食べるのは日本人的には視覚的にちょっと……と思うけれど、食べたときに美味しいんだよな。
「うん。美味しい」
「これくらいの辛さは大丈夫になったんだな」
「うん。大丈夫」
「じゃあ、結構食べられるんじゃないかな?」
「そうか? ならいいんだけど。でも、もっと食べられるようにしたい。辛いから食べられないっていうのは嫌だからさ。韓国に住むのにもったいないだろ」
そう。特別、辛いものが好きっていうのになる気はないけど、辛いものが食べられないから、食べられる料理が限られてくるっていうのが嫌なんだよな。韓国人は「辛くないものもある」と言うけど、それは韓国人視点じゃないかと思う。日本人から見れば、どれも辛い。だから、それを韓国人くらいにはしたいんだ。少しずつだけど。
出てきたビビンバはさすが全州ビビンバと言うべきか美味しかった。その後は|ティギム《天ぷら》の屋台に行ってタコのティギムを食べたりして、お腹いっぱいでホテルに帰った。
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