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春を告ぐ場所7
「明日海。いくつかクレープ焼いてくれる? それを写真撮ってSNSにアップしよう」
昨日、俺の部屋の家具を搬入して貰って夕食でチャジャンミョンを|出前《ペダル》して食べながらお店のSNSのアカウントを見る。今はお店の外観しか写真はない。そして翌日の今日はいくつかのメニューを実際に焼いて写真を撮ろうという話しになっていた。SNSにアップしたいから。
今後はイジュンに焼いて貰うこともあるかもしれないけれど、基本的に俺がクレープを焼く。それは韓国語が母国語じゃないから。お客さんがお目当てのメニューを言うだけならなんとかなるかもしれないけど、なにかを訊かれたときに俺だと何を言われているのかわからないことがあるからだ。だからイジュンには店頭に立ってお客さんからの注文を受けて貰う。そして俺がクレープを焼く。そういう振り分けをしている。だから今現在もイジュンよりも俺の方が焼く練習をしている。
「なにを焼けばいい?」
「一押しメニューがいいんじゃないかな?」
「一押しメニュー……。|봄의 향기《春の香り》とか?」
「そうだね。”春の香り”はうちの看板メニューにしたいからね。だからチラシにも写真を載せたでしょ」
「あー、あの写真なら俺、データ持ってるぞ」
「まだあるんだ? じゃあとりあえずそれアップして。後はなにがいいかな?」
イジュンがどのクレープがいいかを考えている間に俺は春の香りをSNSにアップする。これはhanairoの看板メニューにしたいメニューで俺とイジュンで考えたクレープだ。かと言って特別すごいメニューでもない。ベリークリームに苺をふんだんに使ったメニューだ。普通の生クリームではなく、ベリークリームにしたのがポイントだ。普通の生クリームだと他のお店にもあるから、差別化をはかるために、あえてベリークリームにした。そして苺もたっぷり使う。ちょっと贅沢なメニューだ。
「バナナキャラメルは? バナナチョコはありふれてるけど、バナナキャラメルはちょっとないんじゃないか?」
俺がそう提案すると、イジュンは大きく頷いた。
「そうだね。バナナキャラメルはちょっと少ないかもしれない。そしたらバナナキャラメルを焼いて貰ってもいい?」
「わかった」
そうして俺はクレープを焼き、そこに生クリームを載せ、バナナも載せ、そのバナナの上にキャラメルソースをかけた。
「はい。完成」
「早いね。よし、じゃあ写真撮るよ」
写真に撮るのは巻く前の状態だ。巻いてしまったらなんのクレープかわからなくなるから。
「よし。撮った。あとはこれをSNSにアップして……」
そう言ってイジュンは今撮った写真をお店のSNSにアップした。
「他はなに焼こうか? あ、抹茶白玉焼こうか。日系クレープならではのメニューだろ」
「そうだね。韓国内の他のクレープ店とは違う強みだもんね。俺食べたいから焼いて」
「焼くけど、バナナキャラメルも食べろよ。俺、甘いの得意じゃないから。お前好きだろ、甘いの」
「甘いのは普通だけど、まぁ食べられるものは食べるよ。でも明日海も食べて」
「1個だけな。俺は1個で十分だから」
「そんなこと言ってたら太っちゃうでしょ。彼氏が太ってもいいの?」
イジュンの口から出た”彼氏”という言葉に俺は恥ずかしくなってしまう。いや、確かに彼氏なのは確かだけど。それは否定しないけど、ふいに言われると恥ずかしくなってしまう。
「いいから早くバナナキャラメル食べろよ。その間に抹茶白玉作るから」
「ほんと明日海は恥ずかしがり屋なんだから」
「そんな無駄口叩く前に早く食べろよ」
「はーい」
抹茶白玉は、生地からして普通のクレープとは違う。抹茶を練り込んだクレープ生地に、抹茶クリーム、もちもちの白玉。そこに黒蜜をかけたもので手が混んでいる。でも日系ということで他店と差別を図るために和風メニューを作ったんだ。もっとも他店と言ってもクレープ屋はほとんどないけどな。でも韓国内にゼロなわけではないから、ソウルではこういうクレープが食べられるっていう差別化にはなる。ソウルに遊びに来たときには、ここで食べてみたいと思われると思うから。
抹茶のクレープ生地を慎重に焼いて、抹茶クリームをふんだんに使って、もちもちの白玉を載せて、黒蜜をかけて完成。
「うわ〜。ほんとに美味しそう。いただきまーす!」
バナナキャラメルを食べたばかりなのに、すぐにもう1個食べれるイジュンが俺は不思議だ。これでも本人は甘党だと思ってないんだから。
「いただきますの前に写真撮れよ、写真!」
「あ、そうだった」
写真を忘れて食べようとしてたイジュンを止める。ほんとにこいつは大丈夫なんだろうか。まぁイジュンが食べている間に俺は他に焼くメニューを考えていた。ちょっと他にはなさそうなところで言ったら、アップルシナモンあたりだろうか。アップルシナモンとレアチーズブルーベリーかな? 他にないとは思わないけど、定番メニューとは言えない。他にはあまりないかな? と思うメニューとしてはいちご大福がある。今のメニューにはないんだけど、メニューに加えたい。もちもちの求肥にあんこと生クリーム。そして苺。これ、あとでイジュンに相談してみよう。で、SNSにアップする定番メニューはなにがいいだろう。そうしたら定番メニューはバナナチョコがいいかな? これならクレープの定番メニューと言えるから。
「イジュン、次はアップルシナモン焼くぞ」
「んー」
抹茶白玉を頬張りながら返事をするイジュンが可愛いな、とふいに思った。
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