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春を告ぐ場所8

 SNS用の写真を撮ってアップした後はさきほど届いたばかりのチラシを配ることにする。このチラシには、春の香りの写真が使われている。クレープの写真の他にはポップで可愛いフォントで”hanairo”と店名を入れている。そして地図。クレープが目立つように、用紙はシンプルに白だけどピンクに縁取りをして可愛さを演出している。 「これ、周辺の店に置いて貰うんだろ」 「そう。梨大と新村の両駅とあとは近所のマンションと家」  お店が梨大とは言え、新村にも近いために両駅のカフェや飲食店以外のお店に置いて貰うことにした。そして両駅の近くのマンションとオフィステルと一軒家。だけど範囲が広いから、とてもじゃないけど歩くには辛いのでイジュンがバイクを借りてきた。でも借りてきたのは1台で、これだとどちらかは歩いて回るしかないのか、と思っていたら違うらしい。 「チラシまくのに、どちらかが運転して、どちらかがまけばいいでしょ。他は手分けして配って、2人で移動すればいいでしょ」  イジュンの言葉に俺は頭の中にクエスチョンマークがたくさん浮かぶ。チラシをまく? どちらかが運転して、もう1人は後ろに乗ってまくって言うことか? その前にチラシをまくってどういうことだ? チラシを配るのはわかる。でも、まくってなに? 「チラシをまくってなに?」  わけがわからなくて俺は訊いた。 「え? 一軒家とかは家の前にまかない?」 「え? ポストインじゃなくて?」 「ポストイン、大変じゃない?」 「え? でも、ポストインしないと知って貰えないだろ。まいたら、誰も拾って見ないだろ」 「日本はまかないのか。丁寧にポストインとかマンションくらいかと思ってた」 「そんな大雑把じゃ宣伝にならないだろ」 「そっか。でも、バイク1台しか借りてこなかったよ」 「そしたら、2人で移動してその近辺を2人で手分けして回ろう」 「そうだね」  まさかチラシを配るときにカルチャーショックを受けるとは思わなかった。韓国は|ケンチャナヨ《大丈夫》の国だって聞いたけど、ほんとにケンチャナヨの国なんだな。そういえば、道にチラシがあるのを見たことはあるけれど、それなのか。それってすごいな。 「よし、じゃあ行こうか」  そう言ってまずは梨大近所のマンションにポストインしていく。梨大は一軒家はほとんどないから楽だ。そしてマンションにポストインし終わったら、近所のお店に挨拶してチラシを置いて貰う。ある1店の女の子が好きそうな可愛い外観の韓国コスメのお店に2人でチラシを持って行ったら、俺とイジュンはカップルだとバレた。いや、それも普通の男女のカップルに。 「え? 男なの? そんなに綺麗で? うわ、女辞めたくなる。お肌のお手入れはどうしてるの?」  と韓国語で言われて俺はよくわからなくて、隣で笑っているイジュンに英語に通訳して貰う。もう女に間違われるのは今さらだけど、韓国に来てまでもそうなんだな。もうイヤになってくる。ちなみに肌のお手入れなんかしていないと言うと、これからは紫外線対策はしなきゃだめよと言われ、その他にもスキンケア商品を勧められた。なにも言えないでいる俺に、イジュンは隣でお腹を抱えて笑っている。そんなに笑うなよ! ってか、韓国語よくわからないんだから、笑ってる暇があれば通訳しろよ! そう思って足をがしっと踏んでやると、やっと笑うのをやめた。痛いって喚いてるけど知るもんか。笑ってた方が悪い。イジュンは笑ってても話しは聞いていたらしく、紫外線カットのための日焼け止めを俺に買ってくれた。いや、そんなもの塗ったことないけど。そう言うと、お姉さんもイジュンも驚いていた。今の時代は男でもきちんとスキンケアするし、お化粧だってするんだからと力説され、これからは私がチェックしてあげる! とまで言われて、俺はなにも言えなくなってしまった。  化粧品店でそんな一幕があってからは、他の化粧品店にはイジュンだけで行って貰うことにした。もうおもちゃになりたくない。今さらだけど女に間違われて楽しいことはないし、なによりお姉さんに捕まって時間をロスすることがもったいない。だから化粧品店はイジュンの担当だ。他のお店は俺も行く。そんな感じで梨大と新村のお店とマンションや一軒家にチラシを配って回った。店に戻ったのは夕方だった。お昼くらいから配り始めたから何時間だったんだろう。 「疲れたー」 「ほんとに疲れたね。綺麗な明日海ちゃん」 「おい! もうやめろよ。疲れて怒ることもできないんだよ」 「怒んなくていいよ。別にからかってるわけじゃない。ほんとに綺麗だからそういっただけ」 「だったら”ちゃん”づけやめろ」 「わかったよ。あーでもほんと今日は疲れた。あ、ソヨンにチラシの写真送っておかなきゃ。周りの女子大生に拡散して欲しいからね」  俺がノビている間にイジュンはいそいそとソヨンさんに写真を送っていた。正直、こんなときでもソヨンさんの名前を聞くとドキッとしてしまう。それでも協力はして欲しいから黙っているけれど。

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