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2人の時間2

 お店の内装の最後の仕上げは桜の木のウォールステッカーだった。初めから決めていたら内装工事のときにお願いできたけれど、俺が韓国に来てから決めたから自分たちでやることになった。もっとも貼るだけだからプロの人に頼む必要もないわけだけど。 「明日海。このくらい?」 「もうちょい左で、もうちょい上」 「難しいな。これくらい?」 「ちょっと上がりすぎ。もう少し下げて」 「これくらい?」 「そうだな。そんな感じ」 「じゃあ貼っちゃうよ」 「うん。俺は反対側貼る」  ウォールステッカーはちょっと大きいので、まずは大体の位置を決めてイジュンに左側を貼って貰い、俺は右側をズレないように貼る。もう少し小さければ1人でも貼れたかもしれないけど、それだと店内のイメージを変えることはできないと思って、ちょっと大きめのこれにした。  両方をきちんと壁に貼り、離れて壁を見る。うん、殺風景だった壁が一気に華やかになった。 「綺麗だね。うん、いい感じ」 「だな。これで春っていう感じがする」 「お店の店名も変わらないし、メニューに”春の香り”があるのも変わらないけど、写真立ての写真とウォールステッカーは季節ごとに貼り替えてもいいかもしれないね」 「そっか。そうだな。でも、秋と冬なんてあるのかな?」  秋冬のウォールステッカーがあれば、イジュンの言う通り季節ごとに貼り替えるのもいいかもしれない。そう思ってスマホで「ウォールステッカー 秋」と入れて検索してみる。そうすると紅葉した木のステッカーがあった。次に「ウォールステッカー 冬」と入れてみるとクリスマス仕様のステッカーが目に入る。クリスマス仕様はいいな。韓国はキリスト教徒が多いから、クリスマスはいいかもしれない。でもクリスマスが終わっても世間はまだ冬だ。他にないのかな、と思ったら雪の結晶のステッカーがあった。薄いブルーだから白い壁に貼っても大丈夫だ。 「秋用も冬用もあるな。四季ごとに貼り替えられる」 「あった? じゃあそうしようよ。お店で四季を感じられるっていいじゃん」 「だな」  こうしてウォールステッカーは四季ごとに貼り替えることに決まった。 「でも、ネットでもウォールステッカー結構売ってるのな。もしお店に買いに行っていいのがなかったらネットで買うのもいいな」 「お店のものを買うとき、今は現金で買ってレシートを貰ってるけど、お店用のカードを作るね」 「いや、現金でいいじゃん。帳簿つけるのはそんなに面倒くさくないし」 「うん、そうなんだけどさ、韓国ってカード社会なんだよ。現金を受け付けないわけじゃないけど、圧倒的にカードでキャッシュレスなんだ」  イジュンに言われて気付いた。電車のカードにチャージするのも食事もちょっとした買い物も、みんなカードを出していて、現金を出している人はほとんど見たことない。タクシーだって当然カードで払えるし、カードが使えないところはない。でも個人的にクレジットカードはあまり好きじゃない。 「でもカードだとどれくらい使ったかわからないだろ。それがあまり好きじゃないんだよ」  俺がそう言うとイジュンはそんなことか、という顔をする。 「そしたらデビットカードにすればいいよ」 「デビットカード?」 「そう。クレジットカードは後から請求くるけど、デビットカードはその場で銀行口座から払われるから、口座にある分しかお金は使えない。使いすぎの心配はないよ」 「そっか。そしたらいいかもしれないな」 「デビットカードを2人で持つようにしよう」 「そうだな。そしたら、それはお願いしていいか。カードを2枚作るなんて韓国語、俺には無理だから」 「了解。今夜にでもネットで作っておく。数日で届くよ」  そうしてお店用のカードを持つことに決まった。 「他になにかある?」 「いや。これで大丈夫じゃないか? ぱっと思いつかない」 「じゃあ、また何かあったらその時々で話そう。なんか夢を形にしてるんだね」 「あと少しでオープンだよ」 「うん。もう後戻り出来ないよ」 「今さら後戻りなんてしないよ。日本の就職蹴って来たんだぞ」 「そうだね。明日海がそこまでして来てくれたんだから絶対に成功させなきゃ」 「成功させよう。俺達2人が学校で勉強してきたことがどこまで通用するか」 「そうだね」  3日後にはお店もオープンだ。チラシは配った。お店のSNSには写真をアップした。そしてイジュンはソヨンさんに拡散をお願いした。それでどこまでお客さんが来てくれるか。立地的に学生街にあるから午前中はあまり人は来ないだろう。来るのは学校の授業が終わったあと。語学堂の学生も来るだろうから、それは何時頃終わるのか訊いたら、イジュンの行っていた大学の語学堂は13時に終わったらしい。だからその頃からお客さんはぽちぽち来るんだろうな。いや、来て貰わなきゃ困る。 「しばらくはSNSに写真をアップするようにしよう」 「そうだな。とりあえずメニュー全部載せようか?」 「それはいいけど、食べるのはお前だからな」 「えー。明日海も食べてよ。1個は食べられるでしょ」 「じゃあ1個だけな」 「そしたら後は俺が頑張る」  そう言ってイジュンは難しい顔をした。そんなことしたって1日に焼くのは1枚か2枚にすればいい話しだ。それも俺が焼くんじゃなくてイジュンが焼いた方がいい。俺は焼くのに慣れてきたけど、イジュンはまだまだだ。 「食べることより焼くこと頑張ってくれ」 「あーそうだ。オープンまでの2日間、頑張って焼くよ」 「付き合うよ」 「ありがとう、明日海。愛してるよ」  イジュンはそう言って俺にキスをしてきた。お店でキスするのなんて初めてだ。というより最近は恋人っぽいことしてなかった。だから不意打ちの軽く触れるだけのキスにも俺はドキドキした。

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