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2人の時間4
イートインスペースの飾り付けも終わってオープンまでの2日間、イジュンはクレープを焼く練習をしている。クレープは薄くないとダメだけど、薄いがゆえに破れたりすることがある。俺も最初は破いてばかりだったけど、今は慣れてきて破くことはなくなった。だから、これは枚数をこなせば大丈夫だと俺は思ってる。イジュンは今日5枚焼いて4枚は破いている。
「うー。難しい。なんで明日海は均一に薄くて、でも破かないの? 破かないようにすると均一に薄くなんてできないし」
「俺も最初破いてばかりだったじゃん。だからイジュンも枚数焼けば大丈夫だよ。これは慣れだと思うよ」
「あ! 破けなかった! よし、これでトッピングしよう。まずは基本のバナナチョコクリームにしてみる」
そういうとイジュンはまず生クリームを塗り、その上にバナナを載せ、その上にチョコレートをトッピングする。チョコレートは細く。でも、途切れないように。これがなかなか難しい。途切れないようにしようと思うとドバっと出てしまうから。細い線になるようにするのは簡単に見えてそんなに簡単でもない。
「できたけど、ベースとなる生クリームをほんわり塗るのって難しい。周りの絞ったようなのをキュッとするのがなかなかうまくいかないね。それにチョコレートの細い線っていうのも何気に難しい。でも、これはまだなんとかなるかな。問題はクレープの生地と生クリームだ。生クリームうまく塗れないんじゃダメだよね。どんなクレープだってベースとなる生クリームか抹茶クリームは必要なんだから。あー。今日と明日でなんとかなるのかな? うー」
イジュンは1人でぶつぶつと言っている。俺はそれを黙って聞いているだけだ。でも一言。
「それも慣れだから、これから毎日焼いていくようにすれば大丈夫だよ。バナナチョコクリーム貰っていい?」
「え? 明日海が食べてくれるの? そしたら次に焼くのを食べて。これは俺用」
俺用って誰が食べたって同じだと思うのになにか違うんだろうか。
「明日海用には美味しそうに作るから。気合が違うの!」
「それ、お客さん用にも気合入れてくれよな。俺以上に」
「頑張る。頑張るよ。それでお金取るんだからさ」
「まぁ、わかってればいいよ」
そしてイジュンは真剣な顔で均一に薄い生地を焼き、生クリームをふんわりと塗り、バナナをトッピングし、チョコレートで線を描く。その顔はとても格好いい。
「……できた! 明日海、これを食べてみて。さっきのは俺が食べるから。試食タイム」
目視で生クリームはほんわりと塗れているか、チョコレートは細い線が途切れていないかをチェックする。チョコレートはOK。生クリームもそこそこふんわりしているかな? ただ、周りの絞りがちょっとふわっとしちゃってるところがある。でも、これを言ったら厳しすぎるかな? でも全体的にはうまく出来てると思う。
「明日海、どう?」
「うまくなったね。95点」
「そんなに高得点になった? 良かった〜。で、減点の5点はなにで?」
「端の生クリームの絞りが一部ふわっとしちゃってるから」
「あぁ、そうかぁ。チョコレートは大丈夫?」
「それは大丈夫。うまくなったな」
「良かったぁ。そしたら生地と生クリームか」
「そうだな。生地も上手くいく確率増えたんじゃないか?」
「そうかな。それならいい。じゃあ生地を焼くのと、生クリームの絞りだけ練習してみる」
「頑張れ」
俺が”頑張れ”というとイジュンは柔らかい顔で笑ってから、真剣な表情で生地を薄く焼く。あぁ、穴があいちゃったな。それに気づいてイジュンはその生地を捨てる。ゴミ箱には失敗したクレープの生地がいっぱいだ。でも、それくらい焼いてきているから、成功率は最初の頃から比べると高くなっている。穴のあいたクレープ生地を捨て、次にまた生地を焼く。今度は破れることなく均一に薄く焼けた。そして焼けた生地に生クリームだけを絞る。
「最後にキュッて力を入れる感じにしてみたらうまくいくと思うよ」
「わかった」
俺がアドバイスをするとイジュンは真面目な顔でいくつも生クリームを絞って飾りつけていく。
「そうそう。そんな感じ。うまく出来るようになったじゃん」
「大丈夫? 大丈夫そうならもう1枚きちんと成功させてみる。何を焼こうかな」
「そしたらアップルスペシャルは? アイスの練習にもなるし」
「わかった。やってみる」
そう言うとイジュンはまた真剣な顔をして薄いクレープ生地を焼き、生クリームを絞り、りんごの載せ、バニラアイスを載せて完成だ。さっき練習した成果が出て、生クリームはうまく絞れてるし、アイスもうまくいっている。これは100点だ。
「やったな、イジュン。100点だよ」
「ほんと? やったー。まだ生地を破っちゃうことあるけど、それは枚数こなすよ」
「うん。そうすれば大丈夫。これ、俺食べていい?」
「え? さっき1枚食べたのに大丈夫? 甘いの苦手だろ」
「そうだけど、イジュンの最初の100点は俺が食べたい」
ちょっと恥ずかしいけどそういうとイジュンはキスをしてきた。触れるだけの可愛いキスだけど。
「ありがとう、明日海」
そういうイジュンの顔はトロトロに溶けている。俺だって恥ずかしいから、さっさと食べちゃおう。そう思って食べた1枚はやたら甘く感じたのはきっとイジュンのせいだ。でも、今日1日ずっとクレープを焼いた甲斐があって、これでオープンは大丈夫そうだ。
「そろそろ帰ろうか?」
「そうだね」
キッチンを片付け、バッグを手に外を見ると、ザアザアと激しい雨が降っていた。
「天気予報外れじゃん。どうしよう。傘なんて持ってないよ。かと言ってこの通りはタクシー通らないのに」
「俺はあるから。1度俺の家寄って。そしたら傘貸すから」
「いいの?」
「うん」
そう言って俺とイジュンは1本の傘で俺の家まで帰った。
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