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春の光、揺れる影04
今日はソヨンさんが最後のお客さんだった。明日は日曜日だから休みだ。1週間頑張った。
「明日海。1週間お疲れ様」
「イジュンもお疲れ。クレープ食べるか? 食べるなら焼くぞ」
「明日海も食べて休んでから掃除や片付けしようよ」
「そうだな。で、なに食べる?」
「明日海はなに食べるの?」
「俺はバナナクリーム。バナナが傷んじゃうから」
「そっか。じゃあバナナ食べよう。そしたらアーモンドバナナチョコクリームがいい」
「了解」
イジュンの分からクレープを焼いていく。生クリームにバナナを乗せて、アーモンドを散らばせてからチョコソースをかける。俺はできるだけ甘さを控えたいけど、イジュンは甘いのが好きなので(甘党だとは認めないけど)、生クリームが増えようが、チョコソースを使おうが関係ない。
「はい。焼けたぞ」
イジュンの分が焼けたので、次は自分用を焼く。
「ありがとう。やっぱり明日海が作るのは綺麗だよね。俺ももっと練習しないと」
「俺が韓国語でそれなりにやりとりが出来るようになったら、嫌でも焼いて貰うよ。それにはまだまだだけど」
「どれくらい進んだ?」
「発音と同時進行で単語を覚えるようにしてる。でも、そろそろ文法に進もうと思ってる。後はもう少し仕事が落ち着いたら語学カフェに行って、先生を探そうと思ってる」
「俺、教えるよ?」
「うん。イジュンには授業でわからなかったところとか訊くし、教えて貰うよ。とにかく早く覚えたいんだ」
そう。早く覚えたい。それはお店のためだけど、同時にソヨンさんがなにを言っているのか理解するために。イジュンは俺にもわかるように英語で話してくれるけど、ソヨンさんは頑なに韓国語で話している。もっとも理解できるようになったら、今以上に嫌な思いをするかもしれないけれど、韓国語での内緒話は通じないぞということを知らしめたい。あー、俺、性格悪いな。
「じゃあ俺はトウミね」
「うん、よろしく」
「あ、子供向けの本を読むのもいいよ。簡単な韓国語で書かれているからいいと思う」
「子供向けの本……。絵本とか?」
「そうそう。それをスムーズに読めるようになったら幼稚園、小学校低学年向けって少しずつレベルをあげていくの。これ、結構いいみたいだよ。大学時代、トウミしてた子がその方法で韓国語勉強してた」
「へー。そしたら明日本屋さん行ってみるかな。さすがに今日は間に合わないよな」
|光化門《カンファムン》にある大きな本屋さんは22時までだから、これから片付けてだとさすがに間に合わない。としたら、明日、本屋さんに行ってから語学カフェへ行ってみよう。それで、近くのカフェで勉強してから帰ればいい。最初は勉強するのになんでカフェに行くんだろうと思ったけど、カフェで勉強するようになって意味がよくわかった。家にいると誘惑が多いんだ。でも、カフェだとスマホしかないから自然と勉強するしかなくなる。だから俺も発音をやるとき以外はカフェに行くことが多い。
「せっかくの休みも休めないね。俺も付き合うよ」
「え、でも……そうしたらイジュンが休めないじゃないか」
「それは明日海だって同じでしょ。子供向けの本は、韓国人に有名なお話を探してあげるよ。この話しなら、知らない人はいない、っていう本、日本にもあるでしょ?」
「うん、ある」
「韓国にもそれがある。それを知ってると韓国人と話して驚かれるよ」
「そっか。そしたらお願い」
「やった。明日海とデート」
そう言ってイジュンはウインクをしてよこした。デートって言ったって、毎日店で顔合わせてるのにな。でも、それは仕事だ。オフの顔とは違う。でも、イジュンには申し訳ないと思いながらも、一緒にいてくれるのが嬉しいし、それこそデートだと思ってしまうのはイジュンには内緒だ。そして、ソヨンさんがなにを言っているか理解したいから、というのも内緒だ。イジュンが電話に出ないのも、話すときに英語で話すのも、恐らく俺のことを考えてだ。それに対して申し訳ない気もするけど、あちらがこちらをまるで敵みたいにするから、こちらも構えてしまう。ソヨンさんはお店のことを周りの女子大生に口コミで広めたり、SNSでの拡散に協力してくれている。それには感謝するけれど、それ以外では苦手意識がある。そんなこと言っちゃいけないんだけどな。
「そう言えばソヨン、最近よく電話してくるんだよな。俺が家にいないからかもしれないけど。でも、電話で話したいことがあるなら店に来たときに話せばいいのに、話さないってなんなんだろうな」
話しがソヨンさんのことになり、俺は身構えてしまう。今、ここにはいないというのに。
「単にイジュンと話したいだけじゃないのか?」
「そうなのかな。今は忙しくて、時間があれば明日海と話してたい」
「毎日話してるだろ」
うん。それは仕事上の話し。オフの話しはしてない。わかってるのに素直になれない。ほんと可愛くない性格だな。せめて、俺も話したいと言えればいいけれど、不器用な俺はそれができないでいた。
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