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春の光、揺れる影05
「明日本屋さん以外に予定ある?」
「ないよ。スーパー行って買い物するぐらい」
「そしたらさ、本屋行ったあと韓国語教えるよ。で俺が帰るときにでも新村のマート行けばいいよ」
「俺はいいけど、イジュンはいいのか? 疲れ取れるか?」
「本屋さんはさ、ランチがてら行こうよ。で、その後はカフェで韓国語教えるよ。そしたら疲れない。それに明日海と会うのに疲れるはずないじゃん」
イジュンの素直な言葉に俺は頬が熱くなるのを感じた。今だにイジュンのまっすぐな愛情表現に恥ずかしくなってしまうことがある。韓国人の愛情表現はほんとにびっくりする。日本人とは大違いだ。
俺が顔を赤くしたのに気付いたイジュンが俺をからかう。
「顔赤くして、明日海可愛いなぁ。こんなに綺麗な顔立ちして、性格も可愛くて、よく恋人いなかったよね? 俺って超ラッキーだよね?」
イジュンは格好いいし、素直な愛情表現はいい。でも、いらないことを言うのが難点だ。
「綺麗、はやめろ」
「なんで? ほんとに綺麗なんだから仕方ないじゃん」
「俺が綺麗って言われたら怒るのわかってるのに、お前、ほんと懲りないな」
「だって、言いたくなるんだもん。もうさ諦めようよ」
「誰が諦めるか!」
ほんとに綺麗だというのを言って欲しくない。言われるたびに母さんに殺意がわく。なんで母親に似たんだ? いや、目元が似てるとか、パーツが似てるくらいならいいんだ。でも、俺の場合、顔全般が似てるからな。良く母さんを男にしたら俺になると妹は言う。それこそ、妹は女なんだから母さんに似れば良かったのに、どちらかというと父さん似の顔立ちだ。生まれてくるときに選べればいいのにな。そんなことを考えるくらいには、この女顔が嫌だ。
「まぁ、でも、それで怒る明日海も可愛いよね」
怒る俺が可愛いとか、こいつ頭大丈夫か? 普通なら嫌だろうに。
「お前、変わってるな」
「そう? 普通だと思うよ」
とイジュンは涼しい顔をしている。
「よし! クレープ食べたし、片付けして帰ろう。明日は本屋さんデートだ!」
と楽しそうにイートインスペースを片付けて掃除を始めたイジュンを見て、俺は厨房の片付けを始めた。俺がクレープを1日中焼いてるから、自然と厨房とカウンターの掃除をし始めたら、それならとイジュンはイートインスペースの掃除をするようになった。自然な役割分担だ。
それにしても、デートだと言って浮かれてるイジュンを見て、つい笑ってしまう。一緒に本屋に行って韓国語を教えるだけなのにそんなに楽しみなんだろうか。まぁ、鼻歌歌うくらいなんだから楽しみなんだろうな。俺とイジュンは性格は正反対だと思う。でも、だからいいのかもしれない。もしイジュンが俺みたいな性格なら絶対に嫌だ。
それぞれがそれぞれのスペースを掃除し、帰り支度をしているとき、イジュンのスマホが着信を告げる。すぐに切れたことからカトッだろう。イジュンはスマホを取り、操作をする。
「ソヨンだ。楽しかったってさ。クレープも美味しかったって。俺が電話ないからメッセージに切り替えたんだな」
イジュンの言葉に俺の気持ちは下降する。鼻歌を歌うほどじゃないけど、少しは明日、イジュンと会えるのを楽しみにしてたんだ。だけど、”ソヨン”という名前に俺の気持ちはしぼんでいく。
ソヨンさんが楽しかったのはイジュンと話せたからだ。それくらいわかれよ。クレープが美味しかったのもイジュンがいたから。好きな人と食べる食事が特別なのと一緒。焼いたのが俺じゃなくてイジュンならもっと美味しかったって言うだろうな。
「ソヨンさ、少し気がきついとこもあるけど、ほんとは優しいし、気がきつくても悪気はないんだよな。まぁ俺は家族みたいなものだから他人には気がきついのも隠してるかもしれないけどな」
そう言って笑うイジュンに俺は、なにも返す言葉がない。他人にもきついよ。それに”家族”という言葉が俺を締め出した気がした。韓国人のいう”ウリ”は日本語の”私たち”には完全一致は出来ない。韓国人の言う”ウリ”はほんとに家族とか近しい人のみだ。ソヨンさんは従兄弟だから”ウリ”の中に入れている。でも俺は? 俺はイジュンの”ウリ”に入れているんだろうか。無理、だろうな。恋人ではあっても所詮は他人だ。そう考えて俺はしんどくなった。
「明日海? どうしたの? 顔色悪いけど、具合悪い? さっき赤かったのはもしかして熱?」
イジュンは慌てて俺の額に手をあてた。
「うん。熱は大丈夫だね。どうする? 明日は家で休む?」
こういうところがイジュンは鈍感だ。俺がイジュンの”ウリ”に入れているか考えただけ、なんて知ったらどんな顔をするだろうか。でも、俺はそんなこと言わない。聞いてしまったら韓国にいられなくなるかもしれないから。
「大丈夫だよ。なんでもないから。ちょっと疲れただけだから、一晩寝れば大丈夫」
「そう? 無理はしないでね。もし明日起きてしんどかったら連絡してね」
「わかった」
「じゃあ帰ろう」
そう言ってお店に鍵をかけて別れる。
「じゃあ明日」
そう言って笑顔を向けてくるイジュンに、俺も笑顔を返したつもりだけどうまく笑えていただろうか。そんなことを考えながらの帰り道は足も気持ちも重かった。
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