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揺れる春1

「あずきいちごスペシャルひとつ!」  イジュンの声でクレープの生地を焼き、クレープを作る。あずきいちごスペシャルは、クレープ生地に生クリームとあずき。そこにバニラアイスを乗せたものだ。これはちょっと和を感じるメニューになる。あずきを使うのは韓国では見かけなくて、それに生クリームという組み合わせがさらに日本っぽくてhanairoが日式クレープと言われる所以だ。ソウルの数少ないクレープ屋には見かけないメニューで、他店との違いが見いだせてる。  hanairoのオープンから1ヶ月。ありがたいことに店はどんどん繁盛していて、梨大や延世、ちょっと距離があるけど|弘大《ホンデ》の生徒の常連さんも出来ている。各大学の語学堂の生徒も来ていて、日本人が日本懐かしさに来る人もいる。そして口コミ以外ではSNSでも「梨大にある日式クレープ屋が可愛い」として人気になっている。このSNSの火付け役となったのはソヨンさんとソヨンさんの友人だ。ソヨンさんの友人がそこそこフォロワーさんがいて、何度かクレープの写真をアップしてくれていた。それが女子大生の間で話題になり、それが「ソウルの女子大生に人気のクレープ屋」として日本人女性の間でも話題となって日本からの旅行者にも有名となり、日本からの旅行者も列に並ぶようになった。正直、1ヶ月でここまで来れるとは思わなかった。  今日はお店を閉めて掃除を済ませた後、パソコンで1ヶ月の会計を見ていた。 「信じられないよね。1ヶ月でここまで来るなんて」  とイジュンはホクホク顔だ。でも俺はもっと辛口だ。 「運が良かっただけ。それに、ソヨンさんが広報を手伝ってくれてるから」  俺とソヨンさんは今も仲がいいとは言えないし、ソヨンさんはイジュンにだけ話しかけるし、しかもそれは韓国語だ。イジュンがどれだけ英語で話そうと頑なに韓国語で話し続ける。でもそれで会話が成り立っているし、俺はソヨンさんに話しかけらた時は英語で話していたのだから英語がよくわからないわけじゃない。それでも韓国語で話し続けるのは俺への当てつけだろう。俺がまだ韓国語がよくわからないから。でも、時間のあるときにイジュンに教えて貰っているから、簡単な会話ならなんとかわかるようになっていた。だからソヨンさんが韓国語で話したってイジュンの英語での返事もあるから、もうわからないということはない。ソヨンさんだって、俺がいつまでも韓国語がわからないとは思っていないだろうけど、もっと時間がかかると思っているんだろうか。よくわからないけど、頑なに韓国語でしか話さない。1度ソヨンさんの前で韓国語でイジュンに話しかけてみようかと思わなくもない。ちょっと性格悪いけど。  そんな俺とソヨンさんの関係でも、イジュンがいることでソヨンさんは広報を手伝ってくれている。SNSは店のアカウントもあるけど、拡散という意味ではリアルな”ソウルの女子大生”が取り上げた方が話題にはなる。だから、1ヶ月でのこれだけの売上は確かにホクホクしたい気持ちもあるけれど、どこか”珍しいから行く”というのがあると思う。でも、このあとは”美味しいから行く”に変わらなきゃいけない。だからこのあともこの数字を下回らなければ少しは安心になるのかなと思っている。 「まぁソヨンは仕事が早いから」  そう言ってイジュンは気まずそうに苦笑いを浮かべる。だけど俺は笑うことはできない。確かにソヨンさんが広報を手伝ってくれているし、それでソウルの女子大生の間で静かに広がっているのもわかるし、それは感謝している。でも、それだけだ。いっそ、仕事だと割り切って貰うのにお金を払ってもいいかもしれないとさえ思っている。ソヨンさんにしてみればイジュンのためだからなんだろうけど。 「でも、少しはリピーター出来たよ」  毎日オーダーを承けるイジュンはお客さんの顔をしっかり覚えてる。俺はクレープを作るだけだからお客さんと直接触れ合っていないからよくわからないけれど。 「そっか。そしたらもっと増やしたいよな。梨大に来たら足を向けたいお店、になればいいな」 「そしたら梨大や延世、弘大の生徒じゃなくて他の大学の子や、なんなら社会人にも浸透させなきゃだよね。他の大学はソヨンが他の大学だからなんとかなるとして、社会人は難しい。鐘路みたいにオフィス街じゃないから。梨大はどうしても学生街だから」 「あとは旅行者か。これはソウルでもっと有名になれば旅行ポータルサイトに取り上げられるから、まずは人気店にすればなんとかなるんじゃないかな。日本人の旅行者もいるんだろ?」  パソコンの画面を閉じて俺はそう言った。 「うん。らしい子いるよ。日本語話してるからわかる」 「そしたら、もっと日本の旅行者やその他の国の旅行者が増えたらいいんだけどな。後は社会人か……。これは相当有名にならなきゃダメかもな」 「一歩ずつ進んでいけばいつか社会人も来てくれるよ。例えば梨大で働いている人のリピーターさんいるから、その人からの口コミで広まればいいんじゃないかな。ミンジョンヌナは友達にも話してくれているみたいだよ」 「そっか。ミンジョンヌナには頭あがらないな。とにかく、今後も気を引き締めて頑張ろう」 「そうだね。よし!帰ろう。明日は休みだー!」  イジュンは伸びをしてから席を立った。俺は日本人に話題の店にするには日本の友人に頼む手もあるなと考えながら席を立った。帰ったら大学のときの友人に連絡してみよう。そう思った。

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