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揺れる春3

 ソヨンさんの学校の取材が終わって、片付けを終えたイジュンは先に帰った。俺は材料の発注があるから、各材料の在庫を調べていた。そして発注し終わると俺もカバンを持って店の鍵をかけた。そしてくるりと振り向いたところで人影があるのに気付いた。もう外は暗いから、その人影が誰なのかは一瞬わからなかった。声をかけられて、やっとそれがソヨンさんだとわかった。 「イジュンならもう帰りましたよ」  イジュンに用があるんだろうソヨンさんにそう声をかけた。韓国語で。今までは英語で話していたけれど、頑張って韓国語で言ってみた。すると、ソヨンさんはびっくりした顔をした。俺が韓国語で話すとは思わなかったのだろう。これくらいの簡単な韓国語なら覚えたんだ。ただ、これ以上はまだ難しい。イジュンにもう少し会話について教えて貰うかな。そう思ったときソヨンさんが口を開いた。 「オッパにじゃなくて、あなたに話したいことがあるんだけど」  ソヨンさんの言った言葉はわかった。でも、俺に話ってなんだろう。どうしたっていい予感はしない。それでも帰ってくれと言うことはできなくて、俺は黙って頷いた。 「カフェに行きましょう」  ここで立ち話をするわけにもいかないから、近くのカフェに行くことにする。行くのは、イジュンと仕事終わりに何度か寄ったことのあるカフェ。うちの店から徒歩2,3分のご近所さんカフェだ。ここは遅くまでやっているので、仕事終わりに来ても、梨大の生徒がまだ課題をしている。だから人は多いんだけど店内はうるさくない。比較的静か。こんなところで話すのもな、とは思うけれど、近隣のカフェはどこも同じだ。それなら一番近くのここでもいいだろう。  カウンターでそれぞれドリンクを買い、2階の奥の席へと行く。できるだけ人のいないところがいいだろうから。席へついてしばらくは、どちらも黙ったままだった。そして沈黙を切り裂いたのはソヨンさんだった。 「韓国語。話せるようになってたのね」 「いえ、まだ簡単な韓国語だけです。込み入った話しはまだ英語です」 「そう。じゃあこれから話すことも英語の方がいいかしら」 「はい。そうしていただけると助かります」  込み入った話し……。になるんだろうか。話すことはイジュンのことだとわかってる。となると、だいたい内容は予想できなくもない。それでも、一応英語にしておく。今、俺の韓国語としては勘に頼っているのも多い。だからきちんとした話しは英語の方がありがたい。ソヨンさんも英語ができるし。 「私、オッパほど英語がうまいわけじゃないけど、それは許してね」 「それは構いません。お互い、英語は母国語ではないのはわかっているし」 「ありがとう」  そこでソヨンさんはカフェラテを飲んだ。女子大生が好みそうな可愛いラテアートだ。 「単刀直入に言うわ。私、オッパが好きよ。だから手を引いて欲しいの」  ソヨンさんの口から出てきた言葉は、俺が予想した通りの言葉だった。大体、ソヨンさんが俺に対して他の用事なんてないだろうし。というか、問題はそこじゃない。ソヨンさんは俺とイジュンが付き合っているのを知ってる? イジュンが言ったのだろうか? いや、そんなことはないだろう。じゃあ女の勘っていうやつだろうか。それとも俺とイジュンはそんなに簡単にバレるような感じなのだろうか。ぐるぐると考えているとソヨンさんが笑って言った。 「誰にも聞いてない。でも、オッパを見てればわかる。オッパ、わかりやすいから」  なんのことはない。イジュンの態度だった。確かにイジュンはわかりやすいかもしれない。それが、イジュンをずっと見ていた人なら余計に。 「それで、手を引いて欲しい」  再度言葉を紡いだソヨンさんに俺は一言で言った。 「嫌だ」 「嫌だって、オッパもあなたも男じゃない。そんなの不自然よ」 「不自然かどうかなんて関係ない。俺もイジュンが好きだから」 「オッパには幸せになって欲しい。それには女で、子供の頃からオッパを知っている私の方があなたよりいいわ」 「ずっと近くにいたら家族になっちゃってない?」 「なってないわよ! あなただってオッパに幸せになって欲しいでしょ」 「なって欲しいよ。でも、それは俺がする。2人で幸せになる」 「なによ、男のくせに!」  最初は静かに話していたソヨンさんだけど、俺が頷かないからか苛々してきたみたいだ。でも俺はそれでも冷静に話す。昔から知っているから、異性だから。それで幸せにできるわけじゃない。どれだけ心を通わせられるかだ。 「とにかく、オッパとは別れてちょうだい。オッパにあなたは似合わない」 「別れるとは言わないよ。俺はイジュンが好きだから。人の気持ちは簡単には変えられないんだよ。それにそんなに簡単に別れられるなら、俺は就職を蹴ってまで韓国に来たりしないよ。俺は本気だから。だから韓国に来た」 「……とにかく別れてちょうだい!」  最後はなにも言葉にならずに、言い捨ててソヨンさんは帰っていった。そんなに簡単に別れられるわけないじゃないか。そんなに簡単に別れられるのなら韓国へ来たりしない。別れられるのなら内定を貰ってた会社に就職して、再度公認会計士の資格に挑戦していた。イジュンはどうかわからないけれど、俺はそんな簡単な気持ちではつきあっていない。ソヨンさんにそれだけは伝えられていたらいいのだけど。どうだろう。まぁでも、俺に別れろというくらいだから、ソヨンさんも焦っているというところかな。俺に言わせれば、ソヨンさんに手を引いて欲しい。そう言う前に帰っちゃったけど。だけど、ソヨンさんと余計に気まずくなったよな。あまりお店に来て欲しくはないけれど、来るだろうな。そんなことを考えながら俺はコーヒーを飲んだ。

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