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揺れる春4

 ソヨンさんと2人で話したあと、ソヨンさんがお店に来ることはなかった。それでもイジュンを諦めたわけではないだろう。単にお店に来ないだけで、夜とかはイジュンの実家で会ったり、電話で話していたりするかもしれない。でも、お店には来ないので、とりあえず俺は気が楽だ。ソヨンさんが来ると2人が気になって集中できないから。だから来ないでくれた方がありがたい。  そして今日はお店が終わったあと、俺はお店からさほど離れていない語学カフェへやって来た。ここの存在は知っていたけれど、実際にどんな感じなのかわからなくて躊躇していたけど、お店の常連さんで、化粧品店に勤めているヌナから「いい先生が揃っている」と聞いたから、勇気を出して来てみた。受付を簡単に済ませて座っていると、イジュンより少し年上そうな男性が俺のところに来て、向かい側に座った。 「こんばんは」  第一声から韓国語だった。とりあえず俺は韓国語で返す。 「こんばんは」 「僕はジヌといいます。韓国語を勉強したいのですよね?」 「あ。スナクラ アスミです。はい、韓国語の勉強をしたいと思ってます」 「アスミさん。あなたの韓国語の教師になりたいのですが、いいですか?」 「はい」  ジヌさんと名乗ったその人はとても物腰の柔らかな人で、この人に韓国語を習いたいと一瞬で思った。 「希望は週2回。時間は21時半で1回30分」 「はい。21時まで仕事があるので」 「そうですか。ここは22時までですから、最後の枠ですね。でも、1回30分とはいえ、前回のことを忘れないうちに復讐できるから早く上達すると思いますよ」  穏やかにそう言われると、肩の力が抜ける。早く上達したいな。俺が韓国語をマスターして、注文も受けられるようになれば、イジュンと交代で昼休憩を取ることができる。そうしたら今よりも少しは楽になるだろう。そのためには早くマスターする必要がある。それにイジュンに韓国語で伝えたいことがある。発音抜きで、言うだけなら今でも言える。でも、イジュンに韓国語で返して欲しいなら、もう少し上手くなる必要がある。 「具体的にどんなことのために韓国語を学びたいですか?」 「仕事です。それと……恋人に言いたいことがあるので」 「仕事はどんな仕事ですか?」 「クレープ屋です。ここからも近いhanairoっていうお店です」 「ああ、あのお店の!」  え? もしかして知ってるの? 男の人でも。あ、彼女さんに教えて貰ったとか? でも、ここのカフェから近いから、それで知っているのかもしれない。 「嬉しい。食べてみたかったんです。僕、甘党で。でも男1人で列に並ぶ勇気がなくて」  まさかの言葉を聞いて俺は驚いた。男の人で食べたいと思ってくれていた人がいた。店は女の子向けに作ってはあるから、男性1人だと躊躇してしまうのかもしれない。そっか。そうするとこういうお客さんを取り逃しちゃうことがあるんだな。 「ありがとうございます。えっと、遅い時間ならお客さん少ないので大丈夫です」  頑張って韓国語で言ってみた。発音なんてめちゃくちゃだし、単語だって拙い。それでも、韓国語をこの人から教えて貰うのなら、今の俺の韓国語能力を知っておいて貰う必要があるから、間違えているかもしれないけど韓国語で話した。 「そうですか。じゃあ今度行ってみます。おすすめメニューはありますか?」 「”春の香り”がおすすめです」  この辺の会話はイジュンに習っていたから、単語も比較的スムーズにでる。 「どんなクレープですか?」 「苺クリームと苺をトッピングして、ストロベリーアイスを載せて、チョコソースをかけたものです。春をイメージして作りました」 「苺クリームか。いいですね。食べてみたいです。今度寄らせて貰いますね」 「はい。お待ちしています」  俺がそう言うと、ジヌ先生はにっこり笑っていった。 「発音はまだ怪しいけど、お店のことは言い慣れてるのかな。スムーズに話せていましたね」 「はい、友人に教えて貰いました」  イジュンは友人なんかじゃないけど、いつ、イジュンに教わったとバレるかわからないから、ここは慎重に”友人”としておいた。 「お店は1人でやっているわけじゃないよね?」 「韓国人の友人とやっています」 「そうだよね。そっか。その人から教わったんだね」 「はい」 「発音にもう少し気をつけて、文法や語彙を増やせば、そう遠くないうちにもっと話せるようになりますよ。実際、今、僕の言っていることもわかるでしょう?」 「えっときちんとわかるのは半分くらいです」  そう。こんなに込み入った話しなんて韓国語だけでは無理だ。半分くらいはきちんと理解出来てるから後は勘だ。 「半分? それにしてはきちんと会話になってるよ」  その言葉を聞いて俺はホッとした。もちろん先生が簡単な韓国語で話してくれているのも多分にあるけれど。 「じゃあ、今ははっきりわからないところをわかるようにしていきましょう」 「はい」  こうして俺の韓国語の先生は、この物腰の柔らかいジヌ先生に決まった。

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