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それでも春は巡る2
女の子たちが帰ったあと、イジュンとそのことで話した。
「やっぱり日本人には、これが日本を思い出させるんだね」
「抹茶とあんこはやっぱり和を感じさせるからな」
「確かに俺が日本の甘味って言っても抹茶とあずきを思い浮かべるから正解ではあるんだね。でも留学生の子がこうやって来てくれてるって、それくらいにはhanairoも浸透してるってことかな?」
「広報が効いてるってことだろ。それはソヨンさんには感謝だよな。俺たちのSNSだけだとそこまで行ってなかったかもしれないし」
「ソヨン、ね……。マーケティングって難しいけど、広報を頼むこともマーケティングのひとつだから、まぁこれでいいのかな」
イジュンがソヨンさんの名前を言い淀む。なんだか最近はソヨンさんからの電話を俺の前では取らないし(俺のいないところではわからないけど)、ソヨンさんの名前がでると気まずそうな顔をする。なにか思うところがあるんだろうか。俺がソヨンさんのことで落ち込んだりしたりしたのを覚えているんだろう。
そう話しをしていると、「アンニョーン」と元気な声が聞こえてきた。噂をすれば影。ソヨンさんだ。
「差し入れ」
そう言って近所のカフェの紙袋をカウンターへ置く。
「疲れてるだろうと思って、ドーナツもつけてある。甘い物売ってるお店に甘い物差し入れっておかしいかなと思ったんだけど、まさかお店終わってもいないのに、自分たちの分焼いて食べるわけにはいかないかなと思って。それなら付けておこうかなって思ってね。もしいらないなら私が食べるから」
「ドーナツ貰う! コーヒーは?」
「オッパにはカフェ・オ・レ。疲れてるでしょ。甘いやつにした」
「ありがとう。明日海、貰おう」
「うん」
紙袋の中を除くと、イジュンの分のカフェ・オ・レとブレンドが入っていた。ブレンドはもちろん俺だ。俺はいつもノンシュガーだから、その辺はソヨンさんも覚えているみたいだ。そしてドーナツは2つ。いつもなら甘い物は食べないけど、今日はなんだか食べたい気になって、ドーナツを手に取る。すると、イジュンが珍しいものを見た、と言わんばかりに俺の方を見る。
「明日海が甘い物って珍しいね」
「そうかな。うん、かもしれない。なんか少し疲れてるのかも」
「大丈夫? 明日1日頑張ればお休みだから、とりあえず今日はゆっくり寝て。韓国語なんていいから」
「そうはいかないよ。ちょっと疲れただけだから大丈夫だよ」
俺が甘い物を取ったことでイジュンは大げさに心配する。それだけ俺のことを心配してくれているということだから、それは有り難く受けておく。だけど、こんなところをソヨンさんが見たら面白くないだろうなと思って横目でちらりと見ると、案の定、巌しい顔をしていた。イジュンも気まずい顔をするなら、こういうときにもうちょっとなんとかしてくれよと思うけど、テンション上がったときは難しいんだろうな。仕方ないけど、俺はバレないように小さくため息をついた。
「ソヨンありがとね。いくらだった?」
「お金はいらない。差し入れだもん」
「そっか。ありがとう」
「ねぇ。桜のロゴ、可愛いって人気になってるね。桜イコールhanairoってなってきてるみたい。うちの大学でも噂になってるし、ポツポツ食べたっていう子もいる」
「え? そうなの? 取材受けたかいがあるね。ね、明日海」
俺は頷いて返事を返した。ソウル市東部にあるソヨンさんの通っている大学から西部にあるこの店に来るのは結構な距離がある。家がこっちにある子は別として、家も向こう側にあるのなら、わざわざここまで来るには遠い。それでも来てくれているとしたら、ほんとに取材を受けたかいがあると言える。
「日式だし、可愛いって言われてる」
「さっき言われたんだよ。日式っていうけど俺が韓国人に見えるって」
「ああ、オッパは韓国人だからね。でも、クレープのメニューは日本のクレープ屋さんみたいだし、日本人がいるのは本当なんだから間違えではないじゃない。ただ、オッパが可哀想」
ソヨンさんがオッパって呼び、俺のことは名前さえ呼びたくないという態度にソヨンさんの気持ちがすいてみえる。そこまで露骨にしなくてもいいだろうに、するのがソヨンさんだ。
「別に俺は可哀想じゃないけどさ。でも日本人の留学生が日本が懐かしくて食べに来てくれたのは素直に嬉しかったな。やっぱりメニューは明日海に任せて良かったよ」
そう言ってイジュンは俺の方を見て笑った。少し甘い笑みで、俺は少し恥ずかしくなって思わず俯いてしまった。でも、強い視線を感じて顔を上げると、ソヨンさんがまるで俺を殺すかのような視線で俺を見ていた。その顔はほんとに怖かった。だけど、その表情はほんの一瞬で、次には俺のことを無視してイジュンに顔を向けていた。完全に俺は敵認定されているみたいだ。まぁ恋敵なんだから敵なのは間違いないか。それでも、俺とイジュンに対する態度の違いがあからさま過ぎて、イジュンにだってバレるだろうと思った。イジュンの前では可愛い妹でいたいんだろうけど、それは無理なんじゃないかとソヨンさんを見ていて思った。
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