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それでも春は巡る5

 翌日お店に行くと、イジュンはいつも通り「おはよう」と明るい声で言ってきた。昨日、ソヨンさんのことでちょっといい空気とは言えないで別れたから少しドキドキしながらお店に来たから、いつも通りのイジュンを見て俺はホッとした。 「今日1日頑張れば明日は休みだよ、明日海。でも明日海は忙しいのかな?」 「今日韓国語のレッスンだから、明日は今日の復習と次回の予習」 「韓国語な1日?」 「そう」 「そしたらさ、デートに誘ってもいい?」 「デート?」 「そう。俺と食事とカフェに行くデート。場所は梨大で」 「そんなのいつもと違わないじゃないか」 「違いあるんだなー。明日は韓国語で話そう。で、わからないところやおかしなところは直してあげる」  韓国語会話を取得したい俺にとってそれは嬉しいけど、それだとイジュンはわざわざここまで来る必要があるし、それに韓国語で話すのなら普段だってできるはずだ。それを言うとイジュンは笑って言った。 「要はさ、明日海と会いたいっていうだけなんだよ。毎日一緒にいるけど、それでも会いたいって思うんだ。うざい?」  自分で言った言葉に傷ついたような顔をするイジュンに、俺は思わず笑ってしまった。 「うざくないよ。そしたらさ、場所を他のとろこに変えようよ。梨大だと仕事みたいだ」 「うん! じゃあどこがいいかな? ちょっと考える。明日海も行きたいところあったら言って。いつもはなかなか行かれないところに行こう」 「そうだな」  俺がデートに誘いに乗ったからイジュンの顔はニヤけていた。それで接客できるのかと思わなくもないけど、デートを楽しみにしてくれているんだと思うと嬉しい。家でダラダラする時間は奪われたけど、それでもイジュンとのデートは俺も楽しみだ。ん? 家? デート? もしかして「お家デート」でもいいんじゃないか。そしたらいつもとは違う場所だし、イジュンも俺もゆっくりできる。食事は近所のお店から出前で頼んでもいいし。チャジャンミョンでもいいし、チキンでもいい。前にうちでイジュンとチャジャンミョンを頼んだとき、美味しいって言ってたしな。うん。後でイジュンに提案してみよう。  そんなことを考えながら生クリームを作っていると、時間はお店のオープンになった。と言ってもこの時間はお客さんは少ない。と思っているとミンジョンヌナが友達を連れてきた。 「アンニョン。今日は”さくらと抹茶”を2つくれる? これ春限定でしょ? 今のうちに食べておかなきゃと思って。あ、こっちはね友人のユジン。いつもは鐘路で仕事してるんだけど、今日は有給とって遊びに行くんだけど、その前にここのクレープ食べてほしくて連れてきたの」  ヌナはまだ俺がそこまで韓国語がわからないだろうと英語で話してくれる。こうやって友達を連れてきてくれるってありがたい。 「あと少しで春限定メニューは終わっちゃうから今のうちに食べてくださいね」  イジュンが笑ってそう言うと、ヌナは良かったという。 「ね、”春の香り”は? あれ、看板メニューでしょ?」 「そうです。あれは看板メニューだから春をイメージするけど通年メニューですよ」  そうやってヌナとイジュンが話している中、俺はクレープを焼く。とりあえずひとつ。 「はい。まずはひとつ。すぐにもうひとつ焼きますね」 「明日海くんの焼くクレープは美味しいけど、ビジュもいいよね。ユジン、食べていいよ」  俺の作るクレープのビジュアルがいいなんて初めて言われた。単に可愛い方が女性のお客さんにはウケるかなと思って作っているんだけど、それは正解だったらしい。  そんなことを思いながらもうひとつのクレープを作る。春をイメージした和テイストのメニューは日本人には懐かしさを、韓国人にはめずらしさを感じさせてくれているようだ。そうだ。あとでメニューのことイジュンに相談しなきゃな。 「はい。もうひとつできました」  ヌナ相手にはいつも英語でいう言葉だけど、韓国語を勉強しているんだし、間違えてもヌナならいいだろうと思って韓国語で言ってみる。するとヌナはちょっと驚いた表情をしたけれど、すぐに笑顔を見せてくれた。 「上手いじゃない、明日海くん。毎日韓国語ばかり聞いてるから上達早いのね」  なんてヌナに言われて恥ずかしいけれど喜んでいたら、ヌナの後ろにジヌ先生の姿があった。 「おはよう。レッスン前に明日海くんのクレープを食べたいと思ってね。春の香りをくれる?」  とジヌ先生が言う。そう言えば、甘いのが好きって言ってたもんな。そして先生は俺の韓国語の勉強のために韓国語でしか話さない。もちろん難しい韓国語は使わないでいてくれているんだろうけど。 「え? 韓国語? 明日海くん、韓国語聞くのもいけるようになった?」 「簡単な韓国語なら。それにゆっくりでないと。早い韓国語は無理です」 「そうなの? じゃあ今後は明日海くんのためにも韓国語で話すね。でも、わからなかったら言って。英語で言うから」 「ありがとうございます」  そう言ってくれるヌナが有り難くて、俺はカムサハムニダと韓国語で言った。するとみんなが温かい顔を見せてくれる。韓国へ来てまだそんなに経っていないけど、そう笑ってくれる人ができて嬉しいと思った。    

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