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君の言葉が春に似ていた3

 レッスンを終えたあと、アスミはクタっとテーブルに突っ伏してしまった。 「疲れた?」 「発音ができなくて疲れました。しかもまだ微妙だし」 「また次回も”苺”の発音練習しようね」 「……はい」  小さな声で返事をするアスミが可愛いと思った。たった30分のレッスンだから、そんなに疲れるようなものじゃない。でも、アスミは疲れたという。それって体に力が入っちゃってるんだろうな。今日は”苺”の発音がきちんとできなかったから、体に力が入ってしまったんだろう。でも、それも回数をこなせば大丈夫だと思うけれど。それに韓国語を話せる人でも苦手な発音があったりする。でも、それを気にせずに話すんだ。そして話すことでどんどん発音が良くなるし、さらに韓国語が話せるようになる。好転するんだ。だけど、あまり韓国語を話さないでいると苦手な発音も語彙力も克服できずに、韓国語は伸びないから、余計に話さなくなる。これは負の連鎖だ。だから、多少怪しいところがあったって話すのが一番いいんだ。その点、アスミは共同経営者の彼とは英語で話すみたいだけど、他は韓国人ばかりだから韓国語を話す機会には恵まれている。というか韓国語が話せなかったら彼の場合は困るんだろうけど。そう言えば、共同経営者の彼に話したいことがあるから韓国語を話せるようになりたいと言っていたけれど、その内容は知らないし知りたくない。はっきりはわからないけれど、恐らく恋人だろうから、そんな関係のことだろう。そんな恋愛関係の韓国語はどういうのかと訊かれたことはないけれど、こちらからも言わない。だって、恐らくはライバルだ。そんなライバルに話すようなことを教えたくはない。心が狭いとは思うけれど仕方ない。 「コーヒーを奢るよ。ブラックでいい?」 「え? あ……」 「疲れたでしょう。だから奢り。元気だして」 「ありがとうございます。じゃあ砂糖入りのカフェ・オ・レで」 「え? 砂糖入り? 珍しいね」 「今日、お店も忙しかったんです。だから疲れちゃって」 「そっか。お疲れ様、だね」 「はい」  疲れていたけれどレッスンにはきちんと来たのか。真面目だなと思う。中国人あたりだと疲れていたからと言って休むのはよく見かける。でもアスミは来たんだな。まぁ仕事で韓国語が必要だから余計なんだろうけど。  自販機でカフェ・オ・レを2つ買い、ひとつはアスミの前に置いた。 「ありがとうございます」  アスミはそう言うときちんと座り直してカフェ・オ・レに口をつけた。 「おいしい。たまに甘いの欲しくなるんですよね。疲れたときとか」 「きちんと休めてる?」 「週に1回は休みがあるので一応。でも、なんだかんだ出かけちゃったりするんですけど。それか勉強してます」 「勉強は週にどれくらい勉強してるの? ここで3回は勉強してるけど」 「毎日してます。前回の復習や次回の予習。それと発音。これはイジュン……あ、お店の共同経営者ですけど、イジュンに発音を教えて貰ったりしてます。発音難しいから」  まさか毎日勉強しているとは思わなかった。しかも、韓国人の彼に発音を教えて貰うとか、どれだけ頑張っているのかがよくわかる。それだけ早くお店でオーダーを受けられるようになりたいというのもあるし、彼に言いたいこともあるんだろう。そのために毎日。切羽詰まってるとはいえ凄いと思う。でも、お休みの日にもそんなことをしていたら休んだ気もしないんじゃないだろうか。 「勉強も疲れるでしょう」 「疲れるけど、韓国に来ると決めたのは自分だし、ここに来た以上は韓国語を話せるようにならなきゃいけないと思うから。せめて英語くらい話せるようになればいいなと思って」  アスミと英語で話したことはないけれど、大学2年のときに1年間アメリカに交換留学で行ったことがあると聞いた。だから英語はそれなりにできるんだろう。でないとアメリカでは暮らせなかっただろうから。でも、他の外国語を話せるということは、韓国語も話せるようになると思う。もちろん英語と韓国語ではまったく違って共通点もないけれど、どうしたら話せるようになるか、という勉強法を知っているから、習得までの時間が短い。だから、アスミもそんなに経たずに話せるようになると思う。実際、アスミは韓国語の中でも発音を中心に勉強している。発音がそれなりにきちんとできないと韓国人と話していて通じなくなることがある。だからそれなりには発音ができていないと会話には苦労するようになる。単語力はあとからいくらでも覚えればいい。文法もそうだ。多少文法がおかしくても伝えようとすれば伝わるものだ。もちろん、たどたどしかったりはするけど。多分アスミは自分にあった勉強法を知っていると思う。そうしたらきっとここに通うことも短いだろう。アスミと会えなくなるのは寂しいと思った。もちろんお店に行けば会えるけれど。 「アスミなら大丈夫だよ。頑張って」 「はい。ありがとうございます」  そう返事をするアスミとずっとこうやって話していたいと思ったのはアスミには内緒だ。

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