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君の言葉が春に似ていた5

 授業を終えて家に着くのは22時30分を少し回る頃。それからシャワーを浴びて、寝る前には、その日の各生徒さんのレッスンの進捗状況をノートに書きつけていくようにしている。真面目にレッスンを受けている生徒さんは少しずつだけと力はついて行っている。僕の教えている生徒さんの中では中国人が2人いて、1人は真面目に勉強しているけれど、もう1人はあまりレッスンに力が入っていない。他の生徒さんではやっぱり日本人が多いんだけど、日本人の生徒さんは真面目にレッスンを受けている。その中でも特にアスミが一生懸命学んでいた。多分、仕事が絡んでいるからだろう。でも、昼間お店に行ったときもそうだし、夜のロールプレイングでも多少の拙さはあるものの、オーダーを受けられないほどではないと思った。最初は韓国人の彼にフォローして貰いながらでもオーダーを受けてみたらいいんじゃないかとアスミに伝えた。後は自信を持つことだ。これは日本人の生徒さんに多いんだけど、自信を持って話さない人が多い。間違えたっていいと思う。それで間違えたことに気づいて、正確な言い方を学んで覚えて、それを繰り返せば自然と韓国語能力は伸びていく。今日はアスミにそのことも伝えた。これでオーダーを取るようになるかな? また近いうちにお店に行ってみようか? その前に授業で会うか。そう考えて、自分はいかにアスミに会いたいのだろうかと思った。授業だけだって週3回は会うんだ。それだけでも十分だと思うのに、わざわざお店にまで行こうとしている。まぁお店に行くのはクレープが食べたいから、というのもあるけど70%はアスミに会いたいからだ。甘党とはいえ、そんなにしょちゅうクレープを食べたいわけではない。でも、アスミと出会ってからクレープを食べる回数は増えている。 「まずいよな」  自分でアスミが好きなことは気づいている。でも、アスミはあの韓国人のことが好きだろうし、なにより生徒さんを好きになるなんて、と思う。別に生徒さんを好きになってはいけないという決まりがあるわけじゃない。それでも、贔屓が入ってしまってはいけない。そう考えるとあまりいいことではないんじゃないかと思う。それでも好きになろうと思って好きになったわけではない。ということは理性で気持ちを抑えることもできないということだ。この際、アスミが男性とか女性とか関係ないと思った。最初は綺麗な男だなと思った。ただそれだけだった。でも、一生懸命レッスンを受けている姿を見ていて、どんどん惹かれていった。もう、手遅れかもしれない。  ノートに向かいながらそんなことを考えていると、スマホがメッセージの着信を伝える。それは、ちょうど今考えていたアスミからだった。 『오늘도 감사합니다』  今日もありがとうございました。  アスミは授業が終わったあとは、こうやって一言メッセージを送ってくることが多い。それが密かに嬉しいと思っていることは内緒だ。  そしてアスミからのメッセージに返信を返す。 『수고하셨습니다. 푹 자』  お疲れ様でした。ゆっくり寝てね。  まだ気さくに話す、砕けた言葉は少ししか教えていない。それでも、難しい言葉じゃないから、この言葉もすぐにわかるだろう。そして、もしかしたらあの彼に訊くかもしれない。そう思うと胸が苦しくなった。ほんとにこの気持ちはどうしたらいいんだろう。理性で気持ちをどうこうできるわけじゃないのはわかってる。 「教えるだけの関係には戻れない……んだろうな」  そう口にして、深い溜息をつく。アスミが自分を韓国語教師としてしか見ていないのはわかってるし、今後もないだろう。そうしたら、いつか自然と諦めがつくことがあるかもしれない。だとしたら、そんな日が来るまで待つしかないんだろうか。  そう思って窓の外を見る。アスミは梨大に住んでいるから、あっちの方だなと思って目をやる。住んでいる方を見るだなんて馬鹿だな。住んでいるといえば、あの彼とは一緒に住んでいるんだろうか? それとも別々? もし一緒に住んでいたら彼の前でメッセージを打って、読んでいることになる。なんかそれはどうなのだろう、と思う。そう考えて軽く頭を振る。もうアスミのことを考えるのはやめよう。今日のノートの続きを書いて寝よう。そう思って視線を部屋の中に戻した。

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